ぱらりと懐かしい冊子を広げ、私は読んでいた。

以前私が書いた字すら懐かしく感じる。

・・・ふとある写真を目に付いた。

私と・・・幼き少女。

私は微笑んだ。思い出した。

もうひとりの「神」・・・ウィジュの存在を。



それは、私がヒトに召喚された時だ。

すぐさま、私は即位の儀をされ、「神皇」として扱われた。

誰よりも力があり、誰よりも知識があった。

しかし、もう一人だけこの帝都に「うつろわざる者」がいた。

それが・・・ウィジュ=ゲイル。

ヒトらの話によれば、ウィジュはある村で過ごしていたらしいのだが、不思議な【翼】をもっていることから、無理やり連れてきたという。

その話に興味を持ったまだ幼い私は、彼女の様子を見にとある場所へといった。

『フォ・・フォウル様・・一体何をしに―』

『ウィジュ=ゲイルはいるのか』

『いえ・・・まだ研究室に―』

その時だった。

小さな、少女の悲鳴が聞こえた。

その悲鳴と共に研究者は「天気はどうだ」と慌しく動き、叫び始めた。

何の研究だったのかは分からない。

どんなことをされていたのかすら分からない。

ただ・・・ウィジュを何度も見に行っても、笑ってくれない。微笑んでくれない。

どんなことをしても、ウィジュは微笑んでくれなかった。

しかし、ある日のこと。

研究者たちが、「ウィジュをこの帝都から追放して欲しい」と言い始めた。

何故?と私は問う。

「・・・彼女は神皇様と同じ「うつろわざる者」ではありません。彼女は神皇様が思っているほどの器でもない。力も無い。知識すら・・。そんな彼女を神皇様のお傍にいてもいいのでしょうか?」

その言葉で私は動いた。否、動かざるをえなかった。

その後、私はウィジュを呼び出した。

小さな決闘をしようと話を持ちかけた。

小さなショートボウを持ちウィジュは現れ、ぺこりと頭を下げた。

そして決闘は始まった。

10分もしたであろう。

私はウィジュを見つめていた。

ウィジュは弱い。弱すぎる。

『ウィジュ・・・』

はぁはぁと息が荒れている彼女に私はこう言った。

『お前は弱すぎる』

その言葉にぴくりと反応をした。

『神は完全なる力を持ってなければ為らない。その力はお前は持っていない』

顔を上げたウィジュは辛そうな瞳でこちらを見ていた。

『今ならまだ間に合う。この帝都から去っていって欲しい。お前の代わりは私がやる・・。だから、此処から出て行け。いいな?』

言葉をすらすらと並べる私を見つめて、彼女は一滴の涙を落とした。

その後、数十年も彼女の姿を見ることはなかった。

しかし・・・成長してもそれは不完全な状態だ。

「・・結局、あれは神ではないのだな」

残念だ・・ と思いながらも 絶対に此処には来るな と警告を発する二つの私がいる。

来るな、ウィジュ。来るとお前を私は・・・。







「久しぶりですね〜、ここは」

「何年ぶりかしらね・・ここは」

ほわぁ・・ と久しぶりすぎる光景に圧倒される私たち女性二人組みです。

皇城。

そこは神しかいないと言われているお城です。

あの時はそこら中に「邪気」の存在があったのに・・今はそれはないのか、するりと入れました。

しかし、ここからです。

果たして、今回も私たちを「お犬様」が通してくれるかどうか・・。

「そういえば、ここからはアイツの領域ね・・」

ぴいぃー とウィジュさんは口笛を吹き始めました。

その時でした。

白い白い獣がこちらに向かってきました。

・・あの時と・・リュカのときと同じ光景です。

黄金の鬣をひらりと風に乗せ、ふわりと風のようにやってきます。

「お久しぶり・・アーター」

「やはり貴方様は来てしまいましたか・・。結構な程、警告は致しましたのに」

「・・・貴方に言われても会いたいのよ・・そしてあの時の戦いを再びしたいの」

「残念ですが・・・あの時もいったとおり、貴方にはその資格が―」

「ないというわけではないと思うぞ?」

アーター・・いえ、「お犬様」の言葉を遮るかのように会話に入って言ったのはカイルさん。

そっと、優しく、ウィジュさんの肩を叩きます。

「この数十年間、結構な努力をウィジュはしてきた。ならば、それ相応で彼に、「神」に会うことさえ出来るのではないか?」

「・・・・・・」

「お犬様」はウィジュさんを見てました。おそらく悩んでいるのだと思います。

そして決断が出ました。

「仕方がありません・・入口までですが、ご案内いたしましょう」

「あ・・・」

すっと「お犬様」はお座りの状態になり、私たちを乗せてくれようとしてくれました。

その行動にウィジュさんの沈んでいた顔がぱぁ・・と明るく光り輝きました。

「ありがとうっ!!アーサー!!」



「でも、「邪気」がなくなっていたのは驚いたわ・・」

ふわふわとした毛にもたれながら私は言った。

「あのお方は、やっと半身を取り戻し、完全な存在へと化しましたので「邪気」を振り切ることなぞ簡単なことです」

「・・・そう・・・私とは違うのね」



あの人は変わっていく。

でも私は変わらない。

あの人は守りたいものを守ることが出来る。

でも私は守りたいものを守ることすら出来ない。

私は・・・私の何が変わったのだろうか?



「私の案内は此処までです。後は貴方が・・―」

「分かってるわ。有難う、アーター」

気をつけて と言い、アーターは去っていった。

さて、ここから下へと行くという話なのだが・・。

「ふわぁ・・ふっかいですねぇ〜」

「そこはエレベーターだったんだけど、なぜか無いのよねぇ・・・」

「どうやって、下へと行くつもりなんだ?」

「地下に行けば大丈夫なんだけど・・どんな造りをしているのかは私には分からないわ」

その言葉に反応し、げんなりとしている者が一人呟いた。

「・・・この建物はお前が作ったのではないのか・・・?」

「私じゃないですよ。ここはヒトが創りあげたみたいなんです。こんな複雑そうな構造、私が立てるわけ無いですよ・・・」

「じゃあ・・・どうやっていく?」

その言葉に反応したのはニーナだった。

「あのーですねぇ〜」

「どうした?ニーナ」

「ここから直接下にいけるみたいなんですよ〜、結構深いですが」

かつてエレベーターがあったであろう場所を必死に指差すニーナ。

「・・・?何がしたいんだニーナ?」

そう言いつつも、その穴を見つめていた私。

「いえ、だからこうやって―」

がしっ と私の腕を掴んだニーナはその穴へと・・―。

「う・・・わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ひゅーんと落ちていったのだ。

ただ、落ちるわけではない。

ニーナの中ぐらいほどの翼だけが命綱。

そんな危険な状態である。

30秒後。

ふわりとニーナは翼を広げ、無事着陸した。

「おもしろかったですね〜!」

と本人は満足そうだが、私は青ざめていた。

ある世界には「絶叫マシーン」というモノが存在しているらしいが・・それと同じものだろうか?

「全く、危なっかしいわね・・ニーナは」

ウィジュも同様に、翼を使い、シンと共に降りてきた。

さすがに長年大翼を利用している為か、ゆっくりとシンと共に着陸したらしく、シンは酔ってはいなかった。

「さて・・大丈夫です?えっと・・」

「いや・・何とか大丈夫だ」

そう言い私は苦笑した。



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