老人は言った。

「もはや、あの青年・・否。「神」はワシらを許そうとはしていない。ワシらは悪いことをしたのじゃからな。そしてワシら人間を「愚か」だとも思ったに違いない。どんなに、ワシらが足掻いたって運命は変わらないのじゃよ」

変わらない?

ヒトというものは常に「愚かなる存在」。

だが、それでも知っている。

私が見たあの美しい眼差しを。

どんなに愚かでも許してしまいそうな・・・そんな存在を。

幾度も積み立てて、私は見てきた。

だから言った。

「ヒトはそこまで愚かではない。運命は変わらないわけではない。変わらないと考えるのなら、それはまだこの世界をしっかりとみていないだけだ。

なら、見ればいい。旅をすればいい。そうすれば、後々分かる。己が存在する世界がどれだけちっぽけなのか。

考え続ければいい。時間は幾らでもあるのだから、まだ絶望するのは早すぎると思う」

そう言うと、老人は溜息をついた。

「女子はまるで「神」のようなことをいう。じゃが・・・それがどこまで通じるか」

と、未だに絶望を感じている老人に、私は微笑んだ。

「それは「神」とやらに会ってみないと分からないことだ」







「・・・「ここ」を抜けるのですか・・?」

とても不安な声が森の入口付近で聞こえる。

呪われし森・・ソマ。

黒く音が聞こえる・・それは魂の叫び・・。

黒い雰囲気がその場に襲う・・それは魂の存在・・。

「あの時のノリはどうした、ニーナ」

「・・あのノリは気休めです・・気にしないで下さい・・」

顔面青ざめた状態のニーナを煽るのは、少し可哀想かもしれない。

さらに、この森に来る前に気分を損ねたウィジュにも煽るのは気分的にもいい気がしない。

そう思ったので、唯一全くこの雰囲気を気にしていない者に告げた。

「さあ、どうするシン」

「なぜ、私に?」

「ニーナもウィジュもギブアップだ」

「いや、だから―」

「お前には、その力があるだろう? ここで使わずして、一体どうするつもりなんだ?」

シンのチカラは「死」を安心させる能力。

魂となったモノを興奮から落ち着かせ、優しく「死世界」へと還す事が出来る。

「もしかして・・嫌がっているのか?」

「・・・辛いだけだ。あの時、唯一の生命を裏切った記憶が蘇ってくる。それが嫌なだけなんだ」

「ならば、私がやろう」

そう言い私は前に出るが、シンは顔を横に振る。

「いや・・私がやる。お前がやったらどこをどうなるかが分からない爆発物になる」

「言ってくれる」

ふっ 私は微笑んだ。やっとやる気になったらしい。

蠢く呪いの森を再び見た。

それを見ていると、負の感情が大量にあることが分かる。

だんだん気分が悪くなってくる・・・。

「どうした、シオン」

その言葉に私の身体はびくりとした。

「・・・お前も気分が悪いのなら、俺一人で行く」

「いや・・大丈夫だ」

そう言うと、「そうか」と頷き、静かにシンは詠唱に入った。







「聞こえます・・・」

何か遠くから読んでいる。

「ニーナどうしたの?」

「聞こえるんです、どこか遠くで・・」

あのヒトを止めて、と。

「誰かの声が・・」

そう言い、私はふらりと前へ一歩。

「だめっ!それ以上行ったら貴方も「呪い」にかかるわ!」

必死にウィジュさんが止めていますが、どうしても聞こえるのです。

お願い、あのヒトを止めて、と。



ちりん と鈴が鳴るように、聞こえるんです。





ふう、と俺は溜息をついた。

「大丈夫だ、おとなしくなった」

「そうか、行くぞ。ニーナ、ウィジュ―」

そう言い、シオンは振り返る。

だが、そこには二人の姿はなかった。

しかし、俺には詠唱中、確かな感触があったのだ。

「・・・「呪い」を封じた直後に森の中に入ったようだ」

「そうか、急がなければ」

そう言い、俺たちは歩く速度を速めつつ、森に入っていった。







「ちょっと、ちょっとぉ!ニーナ!どこまで行くつもりなの!?」

何とかあたしは、引っ張り返そうとするが、全くびくともしない。

「・・・・・」

何かブツブツとニーナは言っている。・・・のは分かるのだが、なにを言っているのか判断できない。

「ニーナぁ!!森の入口に帰ろう!」

そうあたしが必死に引っ張ろうとした時、反対に引っ張られた。

「・・・あ」

ニーナは発見した。

それは、少し黒焦げている、一つの鈴だった。

そして、後ろから気配がした。



「ニーナ、ウィジュ。探したぞ」

それは、カイルさんでした。

「一体どうしたんだ。まだ不安定なこの森に入っていって―」

「見つけたんです」

きっぱりと私は言いました。

「これを?」

「そうです。ずっと、ずっと何かを叫んでいて」

「どんな?」

「・・・止めて欲しいという声だな」

そういったのは、後ろにいたシンさんでした。

低く、それでも優しそうな声はふわりと森をも優しく包み込んでいきます。

「・・・俺も聞こえたから、分かる」

「・・・そう、ですか」

「だがその声はニーナ、お前に言っていたようだ」

「えっ・・?」

ぶっきらぼうな顔つきですが、微笑み、私にこう言いました。

「叶えてやれ、その声の主の言葉を。そうすれば、もしかすると、声の主はお前を護ってくれるかもしれないからな」

ぎゅっと、軽く、鈴を握り締めて「・・・はい」と私は少し悲しそうに頷きました。





森を抜けた私たちはもうすぐ帝都につくまえに一晩明かすことになった。

準備と・・心の決断が必要だ。

そう告げ、皆思い思いに過ごした。

「ニーナ・・まだ、寝ないのか」

明日は早いぞと 彼は冗談のように言います。

「そうですね・・・」

私はそう言い、立ち上がろうとしていた時に。

心配そうに彼は言いました。

「何を・・・」

気づいていたのですね、と私は心の中で呟きます。

「何を・・・考えていた」

「いいえ・・・別に」

「・・・そうか」

「大丈夫ですよ!カイルさんがいるんですから!」

そう、私は張り切りました。

それに対し、ぽんと私にカイルさんは肩を叩きます。

「無茶をするなよ、ニーナ」



私は決意しました。

全てを終わらせる為に、彼にすることは―。





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