「神」は此処に住んでいた。

そして「母なるヒト」も此処に住んでいた。

「母なるヒト」はある日、傷ついた「神」を介抱し、「ヒト」に纏わる事を、そっと「神」に教えてあげた。

ヒトは愚かだけど、それでも美しいんだ、と。

しかし、一国の王は「神」の存在を認めず、「神狩り」をし始めた。

「神」は「母なるヒト」から逃がしてもらった。

「母なるヒト」は王に連れ去られ・・・二度と住んでいた場所に帰る事は無かった。

同時に、王を殺した「神」も・・帰ることは無かった。



そう。

ヒトは愚かだ。

だが・・・私たちもヒトと同じ生命体。

それでもその能力等はヒトよりも強力であり、ただのヒトでも私たちに認められたらそういった力を手に入れることが出来る。

だが、私たちからチカラを奪うこともできないだろう。私達はヒトの感情を持ち合わせているのだから。







ソンの村。

「帝都」が滅びた後、難民が集中し、村の畑も魚も環境すらボロボロな状況でも、必死で生きている人たちはニッコリと微笑んでいる。

平和という微妙な村。

・・・微妙というのは平和なのかそうでないのかすら分からないが故に村人がつけたそうな。

そんな、平和なのかどうなのか分からぬ村に、私たちは訪れた。

だが、私たちに対し、「歓迎」などというものは言語道断。

今の食料調達の状態では出来ないだろう。

それをすぐさま知り尽くした私たちはとりあえず寝床を探すことにした。



ぽちゃんと水がはじく音がした。

そして、ワシは女子に問われた。

「釣れるのか?」

髪はカラス色、に近い黒。

きっちりと長い髪を白く、長く、細い布で結んでいる。

薄紅だが、少し濃いような気さえする・・そんな色の瞳は「本当に大丈夫なのだろうか」という不安を拭えてはいない。

そんな不思議な女子がいても・・・雰囲気は変わらず。否、逆に和み始めていた。

「・・・釣れるか分からんし、釣れないのかも知れぬ」

「しかし、貴方のような人なら簡単に釣れそうだ。長年釣りをやっている瞳を貴方はしている」

はっはっは とワシは寛大に笑った。

「冗談に言うでないよ、女子よ」

「・・・女子か・・・」

女子はその言葉にショックを受けた。

「・・・そこまで貴方のような初対面から言われると、気が滅入るな」

「では、女子よ。釣ってみるかい?」

ああ、と苦笑いをしつつ、女子は竿を持つ。

「お前さんはどこから来なさった」

「リプという港町から」

「ほう、あの町からか・・。どうじゃ、いい魚がたらふくあったろう?」

「確かに、いい魚が多かった」

うんうん頷く男に対し、ワシは少し寂しくなった。

「・・あそこはまだいい。しかし、最近ここいらは良い魚がいなくなってしまってな。1年前まではしっかりと脂がのった魚が取れてたのじゃが・・」

「・・取れないのか。貴方のその腕でも」

「腕があったとしても、釣れて上手い魚がたらふくいないと意味が無いのじゃよ」

そう言いながら、竿を上げ下げする。

「今日もダメじゃな、こりゃあ」

「いや。よく見てみろ」

奥の方に。そう奥の方に、魚は潜んでいる。

「そこを狙えば今日の食事くらいは何とかなるのではないか?」

「おお、見落としていたようじゃ。若いの、やるな」

そう言い、そこを狙いながら久しぶりの雑談は長く続いた。

あの白き髪の青年以来だ。そう、私は感じた。



「あっ、カイルさんお帰りなさい〜♪」

とぱたぱたと走ってくるニーナ。

にっこりと微笑みながら、私に声を掛けてくる。

「どうでした?何か釣れました?」

「ああ、なかなか釣れた」

私は、籠を見つめた。

ぴちぴちと踊る魚たちは、しっかりと脂がのってそうだ。

「久しぶりの収穫じゃよ。これで干せばもっといいじゃろう」

「・・・干す、か」

干したら当然ながら長持ちをする。

そしたら、他の人たちとも物々交換等も出来たりする。

それが、この田舎の特徴でもあり、知恵なのであろう。

「今日はもうすぐ日が落ちる。今日は無理じゃな」

確かに、あんなに長く陽が高かったのが夕日と化し、私たちを照らしていた。

ならば・・・。

「ならば、今日は焼き魚だな」

私はぽつりと呟やき、舌なめずりをした。



「いやー、美味しかった」

そう、老人は笑った。

「あんなに良い魚を食えたのも、若者のお陰じゃな」

「だが、貴方の腕がなければすべて逃げられていた」

「はっはっは、大袈裟じゃよ」

ところで、と話を切り出す老人。

「若者らはどこへ行こうとしていたのじゃ?」

その言葉に、ニーナは慌てた。

「えっと・・・それは・・」

「帝都へ」

きっぱりと私は目的地を言う。

「帝都へ・・?何しに?」

「神という者がそこにいるらしいが・・」

「やめときなされ」

その言葉に、夜は音をなくしたと、そう思った。

それほど、老人は真剣味だったということだ。

「あそこにいってももうなぁーんもありゃあしない」

「では「神」という存在は何処にいると?」

老人の真剣味じた声に対し、私も負けずにそういった。

「・・・本当に行く気か?女子よ」

「ああ」

「死ぬかもしれぬのじゃぞ?」

「それでも」

「後で後悔しても知らぬぞ?」

「・・後悔?」

「ああ、後悔じゃ」

そう言い、語り始めたのは、「神」についてだった。





「以前、ここには「神」が住んでおった。それは、白く美しい天子のような青年だったんじゃよ。その青年はある日天空から落ちてきた。しかも、身体中火傷だらけで。

酷い火傷じゃった。その天子のような青年を介抱したのが、この村で・・そうじゃな、一番しっかり者のマミだった。半年ほど・・半年だけじゃが、青年はここにいた。

しかし、ある日、この村にお偉い様が来ての・・。そこから、青年は逃げた。マミはその青年をかばったのじゃ」

ほう、と興味深く呟く私に対し、老人は話を続ける。

「マミはそのままお偉いさまに連れて行かれ、青年は何処へ行ったのか知らぬ。ただ・・一つだけ分かるのは・・・マミは・・・マミは・・」

森に化した。

老人は声を震わせながらはっきりといったのだ。

「夜に森に行くと分かる。マミの声が、聞こえるんじゃ。何かを呟いてはいるんじゃが・・・それは分からぬ」

「呟き・・・か」

「そして、青年のことじゃが・・・」

何かに興奮し、何かに疲れたのか。

老人は己を落ち着かせ、ふう と息をする。

「・・・初代皇帝陛下・・即ち「神」じゃ・・」

刹那。

がたん という音がした。



私はウィジュさんを追いました。

しかし、老人さんの家からそれほど遠くない川岸に立ち尽くしてました。

「ウィジュさん、どうしたんですか」

「当時わたしはその帝都にいたの。そして彼と共にいた」

ぽつりと呟いた言葉は、川の流れに流されるほどに・・悲しい言葉でした。

「でも私は弱かった。そのまま帝都を出された。私は強くなりたいと思った。でも強くなることはなかった」

「・・・ウィジュさん」

「今も昔も私は負けた。そして無視したの。何もかもを彼に任せてね」

「・・・・・・」

言葉が見つかりません。

どうすれば聞いてくれるのか、いいえ。もう私の言葉さえも聞いてくれないのかもしれません。

でも・・でも・・それでは・・。

「私は・・」

だから言いました。素直な私の・・ウィジュさんに対する気持ちを。

「私はウィジュさんを「何でもやってくれる便利な神」だとは思ってません。「神」でさえも、色んな感情むき出しでもいいと思いますし、弱くたっていつかは強くなります。私はずっと彼らを・・「アルカイの竜」を見てきましたから」

「・・・ニーナ・・・」

「・・・でも、それが分かったのはウィジュさんのお陰なんです」

ぎゅっとウィジュさんの手を握り締めました。

「貴方がしっかりしなければ、私たちはどうすればいいんですか!?」

ウィジュさんは地面を見つめ、ふいに顔を上げた。

「そう・・よね!確かに、今更後悔しても遅いしね」

「後悔するなら動く方がいいですっ!」

「そうよ!それよ!」

と、訳も分からず盛り上げはじめてしまいました。



「あいつらは一体何をしてるんだ・・」

「ほっとけ、シン。とりあえずはその疑問を無視に変えるんだ。どんなに今、その疑問をあの子達にぶつけても何も返ってこないぞ」

そう言い、老人との雑談を続けた。





翌日、美しい満月が出ている、夜。

「・・さて、どうする?ニーナ」

「・・・『暗い森を突破するためゴーゴー♪作戦』・・ですか?」

そのニーナの言葉に、唖然とした。

「・・なんだその作戦名は・・」

そして、原因は分かった。

「・・ウィジュ・・」

「はいぃ!??」

自分に返ってくるとは思わなかったのか、女は悲鳴のような声を上げた。

「・・・昨日、一体」

と、昨日の事を聞こうとしたが、私ははぁ、と溜息を付いて、

「・・まぁいい」

「・・?」

「・・?」

やめたら、二人とも訳が分からないような顔をした。



とりあえず、この「ノリ」で森を突破するらしい・・。

それが吉か凶か出るのは・・私でさえ分からない事だった。





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