「ここが、アスタナです」

久しぶりのアスタナはやはりあの時から何も変わってはいませんでした。

綺麗な石壁の模様に商人が集う。

あの時の雰囲気がそこにはありました。

しかし・・。

そんな平穏はさておいて。

アスタナに来てから、カイルさんの様子が悪いのです。





「・・・ニーナ」

ぜえぜえ はあはあと おそらく顔を青ざめながら言う私。

はい?なんでしょうか とあっけらかんとした顔で言ってくる。

「・・・この大砲は・・なんだ?」

金色のオリハルコン製の大砲が町の中央にどっしりとある。

この町の尊重的存在だろうというのは分かる。

だがこの黒い雰囲気は・・・。

「この大砲は・・呪砲といいます。ニエという人たちを使い、呪いを発射するのです。・・・呪いの性質はあまり上手くはいえませんが、人の心の闇・・・恨みとか妬みとか。人に対する心を全て使い・・」

「発射か・・・。この黒い雰囲気は、ヒトの魂といったところか・・・」

はい と悲しいような苦しいような声。



ここにいるだけで、分かる。

呪いと化した者たちの叫び。

未だに「死世界」という楽園にすら行けれない悲しそうな魂の声。



「・・・カイルさん、大丈夫ですか?」

苦しくないですか? と悲しげな声で聞いてくるニーナ。

「大丈夫だ」

「あまり、無茶しないでくださいね?」

ああ と私は返答をした。

その時だった。

「・・・・・・・・・あ・・・・・・ニーナだ・・・・・」

犬のような者が私たちに声を掛けた。

それにしても、ぼそぼそという変な雰囲気の奴だな。

「サイアスさん、こんにちは!」

「・・・・・・ひさし・・ぶり・・・」

なんともいえぬのほほんとした雰囲気。

「・・・・?」

「ああ、紹介がまだでしたね。この人はカイルさんといって、私と一緒に帝都を目指している旅人さんなんです」

「・・・帝都・・・ダメ・・。魔物が・・多すぎて・・・・・・・今も・・・」

ずん と軽い地震のようなものが来た。

「魔物の群れ・・・またきた。いかないと・・・」

すっと片手に刀を構えながら走り去っていくサイアス。

「あっ!私も行きます!!カイルさんも―」

「・・・いや、私は宿で先に休むとしよう・・・」

もはや立っていることすら出来ないほどに空気が悪い。

私の身体ががくりと落ちそうになった。

「大丈夫ですか・・?」

不安がっている彼女に対し、 大丈夫 と苦く微笑んだ。



その 大丈夫 は、後に大きな最悪を生み出すことを知らずに。

運命は ことり と廻り始める。







夜になってもニーナは帰ってこない・・。

それ以上に、益々黒い魂たちが強くなっている。

なんとかしたい。

なんともできない。

こんな時に、オメガかサンがいれば・・。

そんな時だった。

ふと、窓の外を見てみる。

白い霧に包まれた「ニーナ」に似た少女がいた。

その少女は、私に対してにっこりと微笑んできた。

まるで、「こちらにきてほしい」と言わんばかりに。

外に飛び出した私は、少女の期待に答えるかのようにその少女を追いかけていく。







「敵は大勢いますね・・サイアスさん」

周りには大量の魔の物がいました。

私とサイアスさんを今にも包み込むような・・大量の魔の物が。

「大丈夫です・・私、回復特技も使えますし、何とかサイアスさんをフォローできますから・・ねっ」

ぎぃぎぃ言いながら襲い掛かってくる魔の物をロッドでたたきながら、私はサイアスさんに言います。

しかし、返事がないのです。

「・・・サイアスさん・・?」

気分が悪くなってしまったのかと不安げに思い、言いました。

「・・・しゃ・・・しゃべる・・・・・・余裕がない・・・」

きんきん と刀を鳴らしながらも襲い掛かってくる敵をずばずばと切り倒していきます。

確かに、サイアスさんが言うことは正しいと思われます。

私はにっこりとサイアスさんを見て 一つの提案をしました。

「では、この魔物たちを一瞬で蹴散らしましょうか」

私は風を作りました。

何もかも吹き飛ばすほどの、大きな風を。

そして、サイアスさんは氷を作りました。

何もかも、凍てつかせる 氷山を。

それを使って新たな力を作ります。

「いっけぇ!!」 「・・・ゆくぞ・・!」

全てを昇天させる、天の怒りの電撃『バルハラー』。

桃色の美しい電撃は、密集している魔の物に命中しました。

天の怒りは、魔の物の遺体すら残りませんでした。

「こんなものですかね・・」

ふぅ と私は満足気に言いました。

すがすがしいというか、こう「コンボ」が一気に決まると気持ちいいものです。

「・・・・あ・・り・・がと・・ニーナ」

いいえ、こちらこそ  といった瞬間でした。

綺麗な光が何十、何三十にも集まってどこかに集中して落ちました。

その音は・・まるで地震のような。

でもあれは地震ではありません。いきなり雷が生まれ、落ちたのです。

その落ちた方向は・・・町の方向のようです。

「町が気になります・・・行きましょう、サイアスさん」

「・・ん・・」

恐怖に注がれながらも、町へと私たちは向かいます。







「この奥に何かあるのか?」

気持ち悪い動脈等をくぐり抜け、辿りついたのは小さな部屋だった。

「ニーナ」に似ている少女はこくり と頷いた。

カーテンを開けて欲しいらしく、それを素直に受け止め、開けた。

そこにいたのは、少女の亡骸だった。

怒りも妬みも怨みもなく、ただそこにいるだけの「存在」だったと「誰かに」伝える為に。

永遠に・・・そう永遠に待っていたのだろうか?



『・・・妹ニーナに・・・』



後ろから ぱちぱち と拍手の音がした。

蒼いローブを着た まるで狐みたいな男。

「さすが、エリーナ。良い「うつろわざる者」を連れてきましたね」

「うつろわざる者」といわれ、ぎろりと私は狐男を睨み付けた。

「お前は一体何者だ・・・」

「や、あまり敵意剥き出しにしてはいけませんよ。あなたは「神」。ただそれだけのこと。私はユンナと申します。貴方たちの行動を見させていただきましたが、いやはや貴方は面白い「チカラ」をお持ちのようで。

それに、貴方は特別に「流れ」というものが見えない。実に珍しい・・・特殊な存在だ」

「お褒めの言葉を感謝するが、お前なんぞに用はない」

「いえ、こちらには用はあります」

そう言い、くつりと狐男―ユンナは微笑む。

「どうぞ我らの「神」となって欲しいのです」

「断る」そう言い、私は桜色の刀剣を鞘から出した。

「何故ですか? 何故「神」とならないのでございますか、「うつろわざる者」」

「何故か・・・。愚かなヒトの形をしたものにいわれる覚えはない」

そう言った刹那。しゅるりとした黒いものに拘束される。

「貴方には何が何でも「神」になってもらわなければならない。そして私の人形と化させなければ・・・」

「そうまでして「神」を欲するのか・・・」

拘束されても尚、私は余裕があった。



あいつの気配を感じた。



べきべきとユンナの背後でそれは現れる。

「愚かなヒトだ。だが、その願いは通じたらしい」

あいつは恐らくエリーナの魂を死世界へと行かせる為に来たのだろうが、丁度いい。

その背後に迫るものにこの狐男も気付いたらしい。



だが、時既に遅い。



狐男の腸に鋭く暗黒の爪が抉る。

血は噴出し、私を縛っていた黒いものも力をなくしたのか、するりと取れた。

狐男はまだ息をしている。

だがもう少ししたらもっと抉られ、死ぬだろう。

そんな男に優しく声を耳に囁いてあげた。

「我らは「神」なのだよ。お前では到底扱えない・・・自由で無垢で優しく死を支える・・・」

にやりと私は微笑んだ。

「始まりの神であり全てを破壊することもできる・・・始祖神という名のな・・・」



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