私は眠っていた。

うつらうつらとなりながら、「何か」にふわりと抱きとめられる。

それが母体でもあるスフィアだと直ぐに分かった。

どこにいても分かる感触。

それをずっと・・ずっと抱きとめていたいのに・・。

『カイルさん・・!!』

偽の名で己を呼ぶ声がする。

だが無駄だ。 それは本来の私の名前ではない。

心の中で呟く己の名は ただ力を引き出すだけの鎖に過ぎない。

私の真実の名のみではなく、存在すらチカラとなるというのに。

弱きヒトならば木っ端微塵に壊れるぐらいの力を私は生まれたときから持っている。

同時に愛しき者を生まれ変わらせる再生という力も・・・。

それが父体であるアブソリュードが狙っているのは分かっている。

でも私は未だに信じている。私には何もしないことを。

でも私は未だに知っている。私と兄、それ以外の生命体を恨み憎み欲し壊そうとしているのも。



『カイルさん・・大丈夫ですか?』

ああ、ニーナが私を呼んでいる。

だが、目を覚ますとニーナ・・・。お前もまた、狙われてしまうかもしれない。





「カイルさん・・?」

少しずつ目を開かせていくカイルさんを見て、私はほっと胸をなでおろしました。



私たちはあの後、突然倒れてしまったカイルさんの為に、ハシビトの町まで戻りました。

文句を言いながらも、カイルさんをおぶったのは、兄様ですけど。

そして、すぐさま宿でカイルさんを横にしました。

それはそれは穏やかで、すやすやと寝ていました。

兄様曰く「平和に眠っているな・・」と言ってました。

確かに、平和に心地よく眠っていました。



しかし・・兄様はカイルさんのことを快く思ってないみたいなのです。





「ああ・・・大丈夫だ」

カイルさんは小さく呟きます。

「どこが大丈夫なんだ」

腕を組み、苛立ちをカイルさんにぶつける兄様。

「倒れていた人がニーナを助けることは出来るのか?」

「兄様!!もうやめてっ!!」

私は必死に兄様を止めますが、心配性な兄様はカイルさんに怒りをぶちまけます。

「ニーナを助けることができないのなら―」

「ならば、私は一人で行く」

倒れていた人が目をさめてからすぐに すっ と立つことは可能でしょうか?

それを「可能」と言うかのようにカイルさんは立ち上がりました。

「ま・・―」

待ってください。

そんな身体では、魔物の巣にいっても・・・。

そんなことを考え、言おうとしましたが既に遅く。

彼はハシビトの町を出て行ってしまいました。







ほう と私は呟く。

「ここが・・・泥の道・・か・・」

見事に真っ直ぐ一直線に、茶色の道が出来ている。

「だが・・何故こんなのが出来たのだろうか・・」

「えっとですね」

唐突に後ろから少女の声が聞こえた。

その突発さに驚き、私は後ろを振り返った。

「ニーナ・・なんで付いてきた」

「『きっかけ』ができたからです」

「『きっかけ』・・?」

ええ、とニーナは落ち着かせて茶色の道を見て言葉にする。



「1年前・・。私たちは向こう側の西側にいました」

茶色の道の出口付近(だと思われる)に指をさす。

「その時・・私と兄様の他に4人の仲間がいました」

「6人で旅をしていたのだな・・」

はい、とニーナはにっこりと微笑みながら見つめてくる。

だが、その笑みは一瞬の出来事。

「その中に『リュカ』という青年がいました。その青年は「神」の半身・・竜でした。そして、帝都の皇城で「もう一人の半身」と会って・・。そして・・・一つの「神」として・・」

ぽん と。

沈んでいくニーナに対して肩を叩いた。

ニーナの瞳からぽたりぽたりと涙が出ていたからだ。

「ご・・・ごめんなさい」と彼女は慌てる。

「その「神」に会うために行くのだな?」

こくり とニーナは頷いた。

「私もその「神」とやらに会いたい」



さわり、さわりと。

風が頬を、まるで私が幼い子供のように撫でました。

悲しみが残っている私を後押ししてくれるのはやはりこの人なのでしょうか。

優しく愛おしく、強いヒト。





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