ことり と私は紅茶をテーブルにそっと置きます。

それを、 こくり と黒い髪の人は飲みます。

「えっと・・・本当にゴメンナサイ」

いやいや と顔を横に振る黒い髪の人。

「こんな奥深くまで人が通るのは珍しいことらしいし、な。それよりも・・」

紅茶をまた一口飲む、黒い髪の人。

「なかなか美味しいな。この紅茶は」

「あ・・ありがとうございます」

その言葉に嬉しくて ぺこり と頭を下げた。

「珍しいお客さんだね。どこから来なさったんだい?」

フィーズさんがその黒い髪の人に言いました。

「シェークという港町から来たのだが・・。どこかで方向を間違えたらしい」

「どこに向かっているんだい?」

「帝都」

はっはっは と笑い声を上げるフィーズさん。

「帝都に行って何をする気なのかね?あの土地はいまや邪念が凄まじく、人が住む場所もない」

「「神」というのがそこに居るというが・・」

ああ とフィーズさんは言います。

「そこまで行くのに ここからだとまだまだじゃないかな?」

「そうか・・・」

「それに・・・珍しいねぇ。君の「流れ」が見えない」

きっぱりとフィーズさんは黒い髪の人に言います。

「・・・「流れ」は 必要なものなのか?」

その時、ふわりと風が流れたような気がしました。

「例え、「流れ」がなくても 人は人なりの未来を受けることが出来る。それ以上になにが必要だと思うんだ?」

ふふふ・・ とまだ微妙に笑っているフィーズさん。

「面白い人だねぇ、名はなんと言うんだい?」

「・・カイル」

深紅の瞳がきらりと光りました。

「ニーナ。まだ迷いはあるかい?」

いえ と私は言います。

「なら、帝都まで連れて行ってやりなさい。世界中を旅した君なら道筋は分かるだろう?」

はい と私は言いました。

ちなみにマスターはここでフィーズさんと村を支えていくようです。





『リュカ』を助ける為の「きっかけ」が出来たと思いました。

そう思った時、ふと考えました。

もしかすると、「きっかけ」がなかったから『リュカ』の所へ行けれなかったのでしょうか?



* * * * * *



「カイルさんって、不思議な人ですよね」

山地を抜ける時、カイルさんに向かって言いました。

「不思議とは何処のことを言うんだ?ニーナ」

「雰囲気とか、笑みとか・・・」

曖昧な答えを言いましたが、カイルさんはにっこりと笑ってくれたので良しとしました。

今私たちが目指しているのは「ハシビトの町」です。

1年前・・あそこで起きた『事故』が何とか収まっていてくれればいいのですが・・。

「雰囲気は認める・・・だが、笑みは・・・」

服が ふぁさ、と揺らぎます。

「風のような人ですね、カイルさんは」

「ニーナも風のような人だと私は思うぞ?」



歩きながらも歩きながらも 話は進みます。

紅茶のこととか、ケーキの種類とか・・そんな雑談が。

でも・・カイルさんのことは・・聞きませんでした。

いつかは、彼女のことは彼女から全て話してくれるような気がしたからです。

だから今は・・。



「ニーナ」

ふいにカイルさんは町を見つめて言います。

「あれが、ハシビトの町か?」



心地よい風が一瞬だけ通りました。





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