「ここが…ゲアラヴァ村…」

機械が奏でる音にうるさいと思いながらも青年は呟いた。

その青年は銀のはねはねの長い髪に黒い瞳をしており、村を睨みつけながらずんずんと歩いていく。

「ブルーベリーたちが言うには、ここにショコラが連れて行かれた筈なんだが…」

きょろりと周囲を見渡す。

すると青年の耳に聞き覚えのある寝息が聞こえた。

その近くにいるドワーフに青年は睨みつけた。

「ようやく見つけたぜ! オッサン!! オレのダチを返しな!」

それに反応して違和感ある慌て振りをするドワーフ。

「ダチ! お前の…!? いんやぁ…何の事だかさっぱり―」

「てめぇ! 切り刻まれてぇのか!?」

手に魔法を掲げ、威嚇をした刹那。

後ろでどぉん、という大きな音がした。

「あんだ〜!? 粛清か!? 粛清が始まっただか!!」

そう言い、ドワーフ達は慌てふためて奥へと逃げていく。

「魔法使っただ! 粛清だぁ!!」

青年はそこに行ってみると3人のドワーフが立っていた。

「何モンだ、貴様ら…。 何故ドワーフが魔法を使える!?」

そうして立ちふさがるが、ドワーフ達は呟いている。

そして一気に青年に攻撃してきた。

「ぐ…」

不意打ちをつかれた青年はその魔法の色を見た。

明らかに闇属性の魔法…。しかもかなり慣れている。

倒れた青年を見つめ、魔法を使うドワーフは「オレたちは先に行くぞ」と2人行ってしまった。

1人はその小さな手で目を瞑っている青年の衿を掴む。

「まさか死んではいないだろうな。 もっとも、あの程度で死ぬのであれば、鼻から用はない。ここで滅殺するか―」

刹那。ドワーフの懐に刃が入る。

そのままどさりとドワーフは崩れ落ちた。

「油断しすぎなんだよ」

「何処にそんな力が…駄目だ…。 つ…次の宿主だ…」

そう呟きながらドワーフは息をしなくなった。

「あの魔法…やっぱりこいつらドワーフじゃないな…」

「そうだ…」

「!?」

青年が後ろを振り返ったときにはもう遅かった。

ぶぉん、という鈍い音と共に青年は何処かへと飛ばされてしまった。

それを見終わったドワーフはぎりっ、と歯軋りする。

「くっ…やはりドワーフでは駄目だ…。 暫くこいつの中に潜んで、次の宿主に宿るしか…」

そう言いながら建物の中にいる人物を見た。

それを見て、怪しいドワーフは不気味なほどににやりと微笑んだ。





五月蝿い機械達の宴





すっかり静かになってしまった村に6人はやってきた。

「なんでだろ…静かだね」

「ガッシャンガッシャント イウオトダケダゼ」

「不気味で嫌だっぴ…」

「早く済ませようか。 行こう」

そう言いリクは歩き出した。

それに次いで、5人も歩いていく。

「にしても〜、カシスとショコラはどこまで行っちゃったんだろう…」

「分からないっぴ。 でもここは地図で見ると終着点みたいだっぴ」

ぱらり、と移動魔法の地図をピスタチオは見た。

「まぁあの建物の中にいるって可能性もあるからね」

そう。ここから大きい建物が見える。

影だけでもかなりごつごつしているそれをリクは仰ぎ見る。

「行ってみれば分かる! 俺は先に行くぜ!」

「ちょっと待ってよ〜、皆で行こうよ〜」

のんびりした形でアランシアは歩く。

こういったときこそ慌てず騒がず…。

機械なカフェオレを先頭にして建物の中へと入っていく。



外部も機械感たっぷりだったが内部もごっちゃりしている。

それに足を躓きながらも、奥へと進んでいく。

刹那、悲鳴が奥からした。そこから逃げてくるドワーフ達。

「!! 何だ?」

「行ってみよう!」

慌てて走って行って見るとそこには2人のドワーフが1人のドワーフを取り囲んでいる。

ぼろぼろになった機械を見てその1人のドワーフは異様なドワーフ達を睨みつけた。

「なんだぁ、お前たち! 見たこともねぇ奴らだ。 何の用だべ!! こんなことして、どうするつもりだぁ!」

悲鳴のような声でそのドワーフは言ったが、怪しさ満点のドワーフは低い声で微笑する。

「なんだ、こいつら…。 気味悪いな…」

後ろから悪態をつけたキルシュ。それを聞いた邪悪なドワーフはくるりと後ろを振り返る。

「やっと来たか…」

「待っていたぜ…お前たちをな!」

そしてめりめり、と脱皮をするかのように身体が裂けていく。

複数の手が出てきて顔も出てきたそれは…2匹のエニグマ。

「!!!」

「お前達は…あの時の!」

「お前達には散々遣られっぱなしでは気が済まなくてな…ここまで来てしまったのだよ」

「さて、始めるとするか…」

ずるり、と蠢く2匹のダブハスネル。

「なにをするつもりだ!」

「くくく…当然の事。 お前達を絶望させ、融合するのみ!」

じりじり、と楽しげにダブハスネル達は前に来る。

(…2匹はキツイなぁ)

ちらりとリクは仲間を見つめる。

(1匹ぐらいなら皆なら…)

ここは皆を信じるしかない。これまで幾度もエニグマと戦い、成長してきた皆を。

そう考え、リクは威嚇用のミジョテーを1匹に解き放った。

「!?」

「リク!」

「皆、僕が1匹倒すから、皆はもう1匹を!」

「でも…!」

「大丈夫、まかせてよ」

ウインクをしてリクは、その場から逃げる。

「くくく…良い判断だ。 あの純粋無垢な闇を取り入れるのもいいだろう」

「では、こっちはこっちで楽しむとするぜ」

「そうしろ。 後で合流する」

そう言い、ダブハスネルの1匹はリクを追いかけていった。



はぁはぁ、とリクは息が上がりながらも細い通路を走っていく。

「くっくっく…どこまで走るかね?」

闇が襲い掛かってくるようにエニグマは言い放った。

刹那、その言葉で何故かリクは走るのをやめた。

「ここかな…」

「やっと追いかけっこはお終いか?」

リクは振り返り、にこりと微笑んだ。

「うん。 すまないね、君にも走ってもらって」

「ああ、良いとも。 お前が大人しく融合してくれるのであれば、だがな!」

そう叫んでエニグマはリクに襲い掛かる。

それをひょい、とリクは軽々避ける。

「お前のような闇はとても素晴しい! 以前から此処に来ていた奴等はひ弱でならなかった! だが、お前は違う!」

威嚇だろうか、もう一度襲い掛かってくるエニグマ。

「何もかも! 全て! 私のものになってもらう! そして我らは世界を手に入れるのだ!」

「ふーん…それもいいかもしれないね」

「ならば!」

「だけど!」

ダブハスネルの誘惑に負けない為か、リクは叫んだ。

「残念だけど、君には僕を手に入れることすら出来ないんだ。 だって僕はそれを望んではいないのだから」

リクは、すっと手を掲げ、目を瞑った。

そして影が蠢いた。

「…な…」

ダブハスネルも見たことのあるシルエットだった。

それは鮫のような大きな口をしており、大きな手でリクを見守るようにしている。

目は血の様に赤く、ダブハスネルを睨みつけていた。

そして低い声で『リク…』と呟く。

『今日はどうする?』

「ここは火の精霊がいるから、それを利用しようと思う」

『その為に、ここまで走ってきたのだな…』

さすがだ、と言い それはリクの頭を撫でるような動作をする。

それを感じるのか、リクは微笑んで目を瞑る。

「なぜ…なぜ…」

ダブハスネルは愕然とした。

かつてのエニグマの中の王…しかも英雄の一人がまさかここにいるとは、と。

「何故、貴方様がいるのですか! グレン様!」

『ふむ…懐かしき名だ…。 だが、今は違う。 もはや昔の姿を捨てた』

「昔の…どういう―」

刹那、火流がダブハスネルを包み込んだ。

普通ならば、光属性以外は半減する。

だが、この炎は違う。闇と火の属性を組み合わせての強烈な攻撃。

どさりとエニグマの身体が落ちたときは、その身体は炭となっていた。

それを冷酷な瞳でリクは見つめていた。

「ぐぅ…もしや…貴方は…、そうか…」

炭となった身体は震え、笑う。

「そうか! 貴方は…その肉体でこの世界を…統一されるのですね! 我らが念願の…」

『それもとうの昔に捨てた』

影となっているエニグマ―グレンはそう言い、リクは止めを刺した。

ぼろぼろになったエニグマの体を見ながら「ふぅ…」とリクは溜息をついた。

「ありがとう、グレン。 君のお陰だよ」

『それは良いが、グレンはやめてくれ』

それは昔捨てた名だ、と影に蠢くエニグマは言う。

「え〜…、だって僕が気に入ったんだもん。 …駄目?」

『お前の「駄目?」は反則技だな』

仕方ない、と溜息をつきながらもエニグマはリクの影に戻っていった。

そしてリクは炭となったダブハスネルを見つめた。

それは瀕死になりながらもブツブツと呟いていた。

「だが…覚えておけ…。 ウィルオウィプスの卒業生の内、5人に1人は…エニグマに憑かれる運命。 そしてそれが…」

それだけを言い残し、消滅をした。

その言葉をふと考える。

(5人に1人…。 皆、僕みたいになっちゃうのかな…)

それを推測したが、ぶるぶると左右に顔を振る。

(違う。 僕は「特別」だ。 皆が僕みたいな気持ちになるという確定はない。 それに…)

なってはいけないんだ、とリクは呟き、来た道を戻っていく。





同じ頃。もう1匹のエニグマはぜぇぜぇと喘いでいた。

5対1は分が悪いのは分かっている。

それに闇は光のみが弱点であり、他の属性には強い。

そう、そう思っていた。

だが…。エニグマは歯軋りをした。

「畜生! さらに力を上げてやがる!」

浮遊している精霊は奴らの属性のみ。

これではいかに闇の強烈な攻撃を仕掛けても無意味に等しい。

「よっし! 止めを刺してやるぜ! ヒートフォンデュ!」

刹那、ダブハスネルの足元から燃え盛る炎。

「ぐぅぅ…こいつら…」

「や、やってやるっぴ! どんぐりんこ!」

ピスタチオも参戦し、巨大な団栗がダブハスネルの頭上から落ちてくる。

低威力だが、先程の炎の攻撃が残っていたのか、ダブハスネルは倒れた。

だが倒れたのにそれはくつくつと笑い上げた。

「強くなったな…だが、俺を倒したところで他のエニグマはお前たちを狙い続けるだろう。 覚えておけ、5人に1人はエニグマ憑きになる。 そしてその強さを手に入れるエニグマは必ずお前たちの元へ…。 その時になって俺と融合をしなかったことを悔やむんじゃないぜ」

そう言い残し、エニグマは消滅をした。

「5人に1人…」

エニグマが残した不吉な言葉にアランシアは不安げな顔をする。

「い…いやだっぴ! そんなのいやだっぴ!」

「くっ…! 行こう! ぐずぐずしてると追い詰められるだけだ!」

刹那。

「皆、無事でよかった」

後ろからリクが微笑んで来た。

「リク!」

「お前こそ、大丈夫なのかよ!」

「大丈夫だよ。 さすがに強かったけど、なんとかなった」

「…そうか…」

「?? どうしたの? 皆」

「それが…」

アランシアは先程エニグマが残した言葉をリクに聞かせた。



その言葉を聞いたリクは、ふむ と考えた。

「それが本当なら、先に闇のプレーンに行った皆が心配になるなぁ」

「そう…そうだね! 私達が何とかしなくちゃ!」

平常心を取り戻した皆を見ながら、リクは心の中で呟いていた。

(皆…皆ごめんね)

「でもその前に、カフェオレを改造してもらわないとね」

「ヤッパリ…? シクシクシク」

「そりゃあ当然。 その為に来たんだから」と、リクはきっぱりと言った。

刹那。全員1匹のドワーフを見つめる。

そのドワーフは感動していた。

仲間を助ける為にあの危険な闇のプレーンに行く…しかもエニグマに負けないように必死で頑張って…。

ドワーフ―グレナデンはぶわっと涙が溢れるのを感じた。

「で、お願いできるかな?」

にこり、とリクは微笑んで言った。

「いいですとも!!」

その微笑にやられたグレナデンはやる気に満ち溢れながらも言う。



数分後。

「出来た…」

呆然としているグレナデンにカフェオレは頭を下げる。

「アリガトウ ゴザイマシタ。 コレデ マバスガ ウゴキマス」

「いやいや、それよりも気を付けて行ってくるだ。 闇のプレーンはその名の通り、エニグマの巣窟だでね」

「ありがとう、ドワーフさん!」







魔バスに戻ってきた一行は早速バルサミコにカフェオレを見せる。

「おう! 良いねぇ、良い感じになったねぇ。 これで闇のプレーンだろうが元の世界へだろうが自由にいけるわなぁ、一回は」

「じゃあ早速闇のプレーンに行くぜ! 覚悟は出来てるか!?」

「ちょい待て、キルシュ。 …バルサミコ、今なんつった?」

「闇のプレーンだろうが、元の世界だろうが1回は行けるって言ったね」

バルサミコが言う前に、リクは呟いた。

「闇のプレーンになんか何度も行きたくねぇよ。  1回でいいだろ? さっさと行こうぜ! のんびりしてられるかよ!」

「馬鹿キルシュ、もうちょっと頭使えっての」

今日のユキは気分が悪いのか、ふて腐れながら言う。

「そうよ、キルシュ。 一度きりって事は、行ったらもう帰れないって事じゃないの?」

「でもそれじゃあ、他の皆を助けにいけないじゃな〜い?」

その言葉にバルサミコは補足をした。

「カフェオレのトランスが1回しか持たねぇからよぉ。 学校に戻って魔バスをちゃんと修理すりゃ、なんとかなんじゃねぇの?」

「つまり帰るしかないって事だっぴか」

トランスが1回しか持たないカフェオレは溜息をつく。

「マァ、ソウイウコトダ」

「仕方ないよね。 それでも展望は開けたし」

「開けたから良いけど、それでも不便ね。 カフェオレは」

二人の光と闇はそう呟き、カフェオレは「シクシクシク…」と涙をそそる。

「まぁ焦ったってしょうがないよ。 確実な方法を選ぼう。 帰るよ、学校に」

「了〜解! 行くぜっ! ワァァァァァプ!」

その言葉に呼応するかのようにカフェオレも「イヒャー!!」と言い始めた。





* * * * *





奇妙な洞窟のようなそこは闇の属性が浮遊するエニグマにとっては聖地。

そこで男は眠りに落ちていた。

そこに巨大な闇の精霊が『シルト様』と呟いた。

その声に男―シルトは目を覚ます。

『ダブハスネル族を派遣いたしましたが…失敗のようです』

「そうか…。 あの子の様子もかなり落ち着いた」

『はい…それで、裏切者のことですが…』

「知っている」

男はずるりと寝床のようなところから這い出た。

「まさか数%の確率で生き抜くとは…恐ろしく強い敵を生み出してしまったな、私達は」

男はそこにあったタオルで身体を拭く。

「だが、まだ【完全融合】までは整ってはいない。 あいつが望むものまではまだ程遠いだろう」

『はい…』

主、私達はいかにしますか? と言う声がその場に広がった。

「あの子が不安定な状態では、私の望むものは手に入らない。 もう少し様子を見る。 それに…奴も気になる」

畏まりました、と言う声が響きわたり、それの気配は掻き消えた。



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