どさりと倒れたエニグマに対し、キャンディは溜息をついた。

「何とか勝てたけど…ここってどこなの?」

そんなキャンディにカベルネは「何処でも良いヌ〜。 これからも、力を合わせて行くヌ〜」と気軽な声を発した。

「エイエイオ〜! なんてね」と、カベルネにつられて冗談をかますシードル。

だが…、とガナッシュは呟いた。

「まだ、ショコラもセサミも見つかっていないだろ? さっさと行こうぜ」

オリーブもその意見に賛成する。

「でも、探すって行ったって当てはあるの? …ここって、闇のプレーンなんでしょ?」

そう。先程から歪な鳴き声やざわりと不穏に蠢く木々…。

平穏なような光のプレーンよりも不気味さを増している。

シードルは冷静に声を発する。

「そうだね。 何が飛び出すかわからないのに、何の計画もなしに動くなんて、相当な自惚れ屋さんか…お馬鹿さんだね」

「あわわ。 そういう言い方をしなくても、だから、ほら、あれよ、ほら、その、えーと…―」

シードルの挑発的な言葉にキャンディは慌てふためく。

が、ガナッシュは冷静に「ここは、レヒカフ沼の畔だ。 子供のころに何度か来たことがある。 両親と、そして姉といっしょに」と言った。

「東に歩けば、犬族ヴォークスのマサラティ村に出るはずだ」

その言葉にキャンディはほっとした。

「な〜んだ、もう。 ちゃんと考えているじゃな〜い。 そうと分かれば、もうモタモタしてることないよね?」

そんなキャンディに対し、ガナッシュは振り向いて話しかける。

「皆もキャンディも…マサラティ村に残るといい。 ショコラとセサミは俺が探してくるよ」

それを言い残して歩いていくガナッシュに「あ〜ん、置いていかないでよ〜! あなたが頼りなんだから〜!! あなた抜きの面子なんて、もう、酷いもんよ!」とひた走っていくキャンディ。

それを見つめながらも後ろから追いかけていくオリーブとカベルネ。

シードルは溜息をつきながらも歩いていく。

「なんだよ、それ。 やる気なくすなぁ〜。 ボクの魔法だって、それなりに決まってるの見てないの〜!?」



勇気と希望と犬族と



カフェオレから出る白煙と共にブルーベリーは冷静に「着いたわ」と呟いた。

「ふ〜。 それじゃ、オイラはこれで…」と、魔バスから降りようとするピスタチオ。

キルシュはそれを見ながら「キャンプを途中でやめたら退学だぜ! それでもいいのか!?」と叫んだ。

「あの時とは全然状況が違うっぴ!!」

アランシアはその言葉に「そうかなぁ…」と呟いた。

「校長先生は全部知っていたんじゃないかなぁ」

「知っててオイラたちをキャンプに向かわせたっぴか!?」

「この学校の卒業生の5人に1人はエニグマ憑き…だとしたら、もうすぐ戦争が始まるってのもありえない話じゃないね」

リクの言葉にブルーベリーも同情する。

「大人たちじゃ解決できない何かを探させる為に危険を承知で、私たちをエニグマに会わせたのかも知れないわね…」

バルサミコは運転席から降りて話を始めた。

「よく気がついたじゃねぇか、少年少女よ。 魔バスを光のプレーンに送り込んだのは、確かにエニグマだ。 だが、それは以前から俺が依頼されていた事柄なんだ」

「…え! じゃあ僕はそこに巻き込まれたの? じゃあアマランティアは…」

あの赤いエニグマを思い出してリクはバルサミコを見つめる。

「あのエニグマは別の意図があったか…もしかするとグラン・ドルジェが依頼したものかもしれねぇ。 この国の他の魔法使いは誰一人として、敵か味方か分からねぇ。 いざって時に、グラン・ドラジェが頼れるのはお前等だけなんだ」

その言葉に全員愕然とする。

「私たち、グラン・ドラジェに見込まれてますの!?」

「よろこんでいいのやら、悲しんでいいのやら」

「ただ、このまま行くしかないって事ね」

「ソウイウコトダゼ ベイベ〜」

やる気になりつつある面子を見ながら、ピスタチオは「鬼だっぴ…」と震えていた。

「何だか気が遠くなってきたけど…だけど、大人たちに頼れないって分かった以上、私たちでなんとかしなきゃ!!」

「急ぐんだったら、オレが召喚機を動かしてやるぜ! 召喚機ってのは、他のプレーンから生き物を呼び出したりする機械なんだが、改造すればこっちから向こうに生き物を送りこめるようにもなる」

「それじゃ、順番に一人ずつ行くかっ!」

燃え盛るキルシュの声に、バルサミコ「おおっと、焦るなよ!」とストップをかけた。

「行けるのはカフェオレだけだ!」

「マタ、オレカ…」

がっくりするカフェオレにバルサミコは説明をする。

「ドワーフに改造してもらったジェネレーターにだなぁ。 召喚機の魔道パルスを流してなんか、タービンを逆回転させるわけよ」

「セツメイガ アバウト ナンデスケド…」

「で、カフェオレにガナッシュらを探しておいて貰う。 魔バスが修理できたらすぐに助けに行く。 これでいいだろ?」

「カフェオレだけじゃ厳しくない? 一人で行った所で―」

ユキの心配そうな声にレモンが手を上げる。

「私も行くよ。 カフェオレと一緒に召喚機に入れば行けるだろ?」

そのレモンの言葉にブルーベリーとペシュも手を上げる。

それにバルサミコは溜息をついた。

「そんなに何人も入れねぇ。 精々3人だな」

「じゃあ、私とレモン!」

「誰と行くかは、カフェオレが決めな。 カフェオレが一番たよれるヤツを選ぶといい」

それじゃ、俺は召喚機を改造してくらぁ、と言い残し バルサミコは魔バスから降りていった。

それを見送り終わり、アランシアはカフェオレに声をかけた。

「で?誰と行くの?」

「ソレデハ… テンサイト ウタワレル リクサンニ… 2000テン…」

「ボケてる場合じゃねぇだろ…」

ボケる機械に、キルシュは溜息をついた。

「まぁ、アマリアとの決着もつけたいしね…。 ごめんね、皆」

「まぁいいわ。 でも…そのアマリアって?」

ユキの疑問に「ああ」と返答するリク。

「アマランティアじゃ、ちょっと長くて言いにくいから僕なりに短くしたんだ」

心の隅では 全くお前と言う奴は という声がリクには聞こえたがあえて無視をした。

「で、僕ともう1人はどうするの?」

「ソウダンシテモ イーデスカ〜?」

「うん、いいよ」

カフェオレの言葉に、にこりと微笑むリク。

こそこそとする2人にキルシュは「段々緊張感がなくなってきたぜ…」と溜息をついた。

数分たち、カフェオレは「キマリマシタ」と手を上げた。

「で、誰にするの?」

「うん、やっぱりピスタチオかなって…」

「なんでだっぴ!?!? だってユキとかキルシュとか…」

「じゃあ、このまま弱いままでいいの? ピスタチオ」

リクの言葉にはた、と身体が止まるピスタチオ。

「確かに僕らもこのままピスタチオが落第して、学校からいなくなるのは嫌だよ。 でも、最低でも君自身強くならないといけないんだと僕は思ってる」

「リクたちは強いから言えるんだっぴ! 自分に自信があるから―」

「僕らだって弱い所は沢山あるさ。 でもね…」

リクは目を瞑る。

「その弱い所はそのままで良いと思うんだ。 一番強くしなきゃいけないのは心なんだ。 ただ単に魔法が強ければ良いんじゃないと思う」

「… …」

その言葉にピスタチオは黙り込んだ。

リクは目を開き、にこりと微笑む。

「僕がサポートしてあげるから、一緒に行こう。 今日からは共に戦う仲間だ」

そしてリクはピスタチオに手を差し伸べた。

ピスタチオは戸惑うが、それでもリクの手に触れ、握手をする。





魔法動力の音が重なり合う部屋でリクとピスタチオとカフェオレは身体を支えあっていた。

「魔バスが修理できたら、すぐ迎えに行くからなー。 それまで頑張れよー」

「兎に角、皆を探しておくね」

「ああ。 闇のプレーンに行ったら、ギュウヒ・オグラを探しな。 ギュウヒ・オグラは、以前はこの学校で各プレーンの地理について教えていたんだ。 今は引退して闇のプレーンにいるって話だ。 まずはギュウヒ・オグラをさがして、闇のプレーンの地図をもらうといい。  ギュウヒ・オグラはレヒカフ沼の南西あたりにいるって話だ」

カフェオレの声が響き渡る。

「ソレデハ リク! ピスタチオ! ジュンビハ イーデスカ!?」

「オッケーだよ」「だ…ダイジョウブだっぴ!」

バルサミコの「死ぬなよ〜」という声を最後に聞き、リクたちの目の前の場所は移り変わっていった。







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