そこはレーミッツ宮殿の内部の一室。

そこにユキ達が倒した筈の3匹のエニグマの姿があった。

「くっ…」

「人間如きが…何故に」

「死すべき定めの者に勝利はない。 人間の身体はいつか滅びる。 だが、我らは不死身だ。 ゆっくりとやればよい」

その言葉に1匹が強烈に反応し、「ゆっくりとだと!? このままでは何度でもこの屈辱を味わうだけだ!!」と反論した。

もう1匹は冷静に「まさかこの光のプレーンで宿主を探すというのか…? そんな知的生命はいない」と、言うが…そのエニグマは頭に血がのぼってしまったようで。

「この際ドワーフで良い!」と言い始める始末。

「馬鹿な! 魔法も使えぬ生物と融合した所で、大した力は得られぬ。 寧ろ危険だ! 肉体の死に巻き込まれれば我らの命も危ういぞ!」

「それは人間も同じだ。 今だけ…今だけだ…。 奴らに死の恐怖と麗しき闇の融合を…」





闇への誘い





「にしてもまさか私がぐっすりと眠ってる間にセサミとカシスに会ってるなんて驚いたわ」と、歩きながらユキは言った。

そこは光の宮殿の入口付近。魔バスに戻って行った慌てん坊のカフェオレを追いかけたが、さすがに女性だらけで疲れたのでゆっくりと歩いて文鳥ヶ原に戻っているところである。

「大変だったんだよ、ユキが倒れて。 …まぁ、軽かったから良かったけど」

「え…何、良いボディーをしてるから軽くてホント助かったって?」

「全然言ってないわよ、そんなこと」

そんなやりとりをしている間に魔バスに着いた。



「いよう、少女共! 丁度良い! ついさっきカフェオレを分解してみたんだが、古くて使いモンにならねぇ!」

「ケッ。 フルイノハ、オマエノ ウデジャ ネェノカ〜?」

「そんな事言わないの、カフェオレ。 皆を置いて自分勝手に戻ってきた罪は重いよ?」と、リクが後ろから言う。

「聞くところによると、どっかにドワーフの塔ってのがあって、そこのドワーフは機械の改造が得意だっていうじゃねぇか。 そこで頼みがあるんだが、カフェオレをそのドワーフの塔ってとこに連れて行って、魔動力ジェネレーターに改造してもらってきて欲しいんだ。 そうすりゃ、後はどうにでもなるってモンよ」

「マドウリョクジェネレーター… ケッコウナ ハナシダネ。 ナンニデモ ナリマストモ。 ミンナノ タメデスカラ、ヨロコンデ ハイ。 トクイノ ミートパイヲ ゴチソウシテ アゲラレナクテ ザンネンデス」

そんな寂しい言葉を連発するカフェオレに対して、ぽつりと「可哀想かも…」と、ペシュは呟いた。

「ということは後は5人だけってことか…」

「でもブルーベリーとユキは休んだ方が良いかも…」

「ん…? ブルーベリーは分かるけど、なんでユキ?」

「途中で倒れちゃったらしいの、風邪で」と、ユキは恥ずかし気に言う。

「珍しい。 380日年中無休な人が」

「何よ、私だって人間なんだから風邪だって引くわよ」

「じゃあ、決めようぜ。 誰を中心としたパーティーにするか」

「そりゃあ当然リーダーはリクしかいないわよ〜」

「サスガ リーダー」

段々恥ずかしくなってきたのか、えへへ と少し顔を赤らめるリク。

「で、後4人はどうする? リーダー」

「そうだねぇ…」

ふむ、と決めたのが 雷属性のレモン・音属性のアランシア・火属性のキルシュ・木の属性ピスタチオ。

「て、なんでだっぴー!!」

「いいじゃないか、リクが決めたんだから」

そんな面子を見て、ふわぁ…とユキは欠伸をする。

「それじゃあ頑張ってきてね、こっちは大人しく休むわ」

「って、もう寝る気…!?」

「じゃあ頑張ってくるからゆっくり寝るんだよ」と、リクはユキにそう言い残した。



* * * * * *



イベンセ岩場。

岩場というよりも岸壁に近い場所で大変危険なのだが。

「さっきからこんな危険な場所にドードー鳥を連れた少年とか多く見かけないか?」

「多分そんなの気のせいじゃねぇの?」

「キルシュって鈍感〜。 それにそんなに多く見かけないし〜」

こんなやりとりをしている刹那。

「あー!! リク達だー!」

「お〜…いたヌ〜。 見たことある顔だらけだヌ〜」

「あ、キャンディにカベルネ」

「コイツはラッキーだな。 次々と仲間が見つかる」

「シードルにオリーブも〜元気だった〜?」

「ええ…なんとか」

「でもここからじゃ行けないね…なんとかそっちに」

恐らくは迂回するからと言いたかったのであろう。

突然キャンディの悲鳴があがった。

がさりと、岩場で少ない草むらから出てきたのは気味悪い赤の鎧を被るエニグマ。

「なかなか良い悲鳴だ…。 だがそれはもっと闇の奥地でやりたいと思わないかね?」

ぞくりとするその言葉にオリーブも震える。

刹那。キャンディとその周辺に居たオリーブ・カベルネ・シードルをも飲み込むブラックホールをエニグマは作り出した。

そこに飲み込まれるキャンディ達。

「キャンディ!! お前、キャンディ達に何をした!」

「案ずるな、無垢な闇。 闇のプレーンへと招待しただけだ」

「闇の…プレーン…?」

「お前とは戦えないのは残念だが、仕方がない。 お前たちも闇のプレーンに連れて行ってやろう」

「ふざけんな! 返り討ちだ!」

「いくっぴ〜…戦うの嫌っぴ〜…」

「あわわ。 怖いけど皆を助ける為にも、闇のプレーンへ連れて…」

闇に負けそうなメンバーに対して、後ろからリクは喝を入れる。

「闇に負けちゃ駄目だ! 皆!!」

その言葉に、はた と後ろを向く面子。

それを「ほう…」と感心してエニグマはリクを見る。

「そうよ…ね! そうだったわ。 ありがとう、リク。 もう少しでこのまま闇のプレーンへ行っても良いかなって思ったわ」

「そうだっぴ…! 前に言われたのを忘れてたっぴ…!」

それらの言葉を聞いてくつくつとエニグマは笑った。

「なかなかの絆…素晴しいものだ。 これでは傷をつけずに闇のプレーンへ誘えないな」

「残念。 僕を倒さない限り、僕のパーティーメンバーは傷つけさせないからね」

「仕方がないな。 断念しよう」

そう言い、エニグマは移動魔法を起動させた。

「一つオマケにいっておこう。 お前とは違う闇属性の少年も闇のプレーンにいる。 どちらにせよ、お前たちは遅かれ早かれ闇のプレーンに行く事になるな」

ぎりっ、とエニグマを睨みつけてリクは言った。

「まだ…名前を聞いてなかった。 僕はリク=ヴィクスノヴァ」

「アマランティア…。 闇のプレーンで待っているぞ…無垢な闇、リクよ」

そう言い、アマランティアは微笑んで消え去った。

「参ったな…闇のプレーンか」

「行きたくないっぴ! オイラ嫌だっぴ!」

「多分アマランティアが言ったことは全部本当だね。 必然的に行かないといけないね。 僕たちも、闇のプレーンへ」

「あんまり帰るの遅くなるとパパやママが心配するだろうなぁ…」と ぽつりとアランシアは呟いた。

それを聞いたレモンは「もうすぐ魔バスが動くようになるから、そうしたらピスタチオと一緒に先に帰ってもいいよ」と優しく言った。

「んーん! いいの! 私だけ帰ってもキャンディ達が帰らなかったら同じことだもの!」

「同じじゃないっぴ…」

「そんなことばかり言ってちゃ駄目だよ、ピスタチオ」と、リクは言った。

「多分、あの言い様だとガナッシュも闇のプレーンにいるんだね…」

「まぁ行こうぜ、リーダー。 ここにいてもしょうがない」と、キルシュはリクに促した。



(…アマランティア…か。 ゲウグレンドゥの知り合い?)

知り合いも何も…かつての部下だ、と風は嘶いた。

(へぇ。 ゲウグレンドゥの部下だからこそあそこまで迫力があるんだね。 もうちょっと威嚇の使い方を学ばないと)

別にエニグマから学ばなくても宜しい、と言わんばかりに風が唸った。



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