ふと匂いがしてユキは目を開けた。

身体を起き上がらせて、額に手を当てる。

あれほど辛かった頭痛と火照りがなくなっている。

そうして周囲をキョロキョロとさせた。

しかし臭いが酷すぎて顔をしかめて一言呟く。

「…臭い」



チーズ臭は食べたくなるほどに



チーズの強烈な臭いにもなんとか慣れたのか、身体を伸ばした。

ここはどこなのだろう? 皆はこんな所においてどこにいってしまったのだろうか?

疑問とイライラを募らせながらそこにいたネズミに声をかけた。

「ここはどこで私の仲間を何処にやったの?」

ネズミ(恐らくはメス)はユキの八つ当たりのような言葉と声に身体を震わせながら「…た…多分最上階に…」と言った。

「最上階?」と言い天井を見る。

刹那。 「やっと目覚めなさったか…」と小さい杖をつきながら年老えたネズミが歩いてきた。

「おばば様…」

「年老いネズミね」とユキは皮肉る。

「まさかこの娘があの光の国の王女の娘だとは…のう」

その言葉にユキはばっとそのおばば様に顔を近づける。

「!!! もしかして私の…」

「そう、お前さんの母親は光の国の王女 セレスティアル=ブレストリンクスじゃよ」

年老いネズミはふう…と溜息をついた。

「昔、光の国には王であるオディオ、女王であるソルがいた。
そこには溢れんばかりの光属性の精霊が住んでおり、闇属性が住まぬ場所として有名だった。
しかし、とある日にエニグマの長率いる闇属性の邪が光の国を襲ったのじゃ。
そしてどうしたかは分からぬが、光の国から『光』を奪い、王族は全員皆殺し、王女はエニグマたちに連れ去られた…」

そうしておばば様はユキの顔を見た。

「その後どうなったかは分からぬが、お前さんはその王女にそっくりじゃよ」

「それって、性格も含めてよね」

「それはどこかで歪んでしまった様じゃな。 だが…お前さんが産まれて今こうして生きているということは」

「お母さんも…そのエニグマがいる場所にいるかもってこと?」

「それは、なんとも言えない」

「そう…。でも良かった」

「…良かった、とは?」

「私小さいときの記憶があまりないの。 いつの間にかある遠境の村にぽつりと立ってたらしくてね。
その時にはお父さんもお母さんもいなかった。生きてるのか、死んでるのかも分からなかった。
だから嬉しいの。 これでやっと希望が持てる」

「そうか、そうか」

「で。 そんなことより、私のクラスメイトを返してもらえないかしら?」

自らの要求を後回しにされたことがそれ程腹にたってたのか、右手に魔力の玉を作りながらおばば様を睨みつけていた。



最上階である6階まで来たユキがみた光景はまさに所謂いつもの光景のようで。

チーズケーキを焼いているカフェオレがそこにいた。しかも楽しそうに。

「楽しそうね」

「あ、ユキー!」

「もう身体は大丈夫なの?」

「ええ、皆のお陰よ。 で、これは何のフェスティバルなのかしら?」

ユキにとっては楽しそうな画が広がっているまさにそこはセンターキッチンのような場所。

楽しそうにケーキを焼くカフェオレを見つつ、戸惑いつつ、ペシュが口を開いた。

「それが…」

「あー、チミチミ! そりはわしの とくチューオーブンなのでありマスのよ、もしかして〜。
ドワーフの親方に、すンごい値段で作ってもらったモノなのよ、もしかして〜。
でも、チミが、どーしても欲しいとゆーなら、売ってあげてもイイのよ、もしかして〜。
カエルグミ青10個と交換でどうでありマスかね〜 もしかして〜」

「やっすいわね」

「でもでも〜」

「私たちが持っていたカエルグミは全部入口で没収されちゃったのよ…」

「あるわよ」

「え…」

「ここに」と手には大量の青いカエルグミが。

それは10個どころではなく「とりあえず30はあるわね」

「ユキちゃんすごいですの!」

「そんなに大量に…どこから持ってきたの?」

「それはいいとして、ちょっとあなた」

とここの首領であるネズミにユキは話しかけた。

「なんでありマスか〜?」

「伝言よ。 おばば様が怒ってたわ」

「あんな年老いたばばあなんてどうもでいいでありマス、もしかして〜」

「こんな所でチーズケーキ焼いて喜んでいるネズミは、もう息子じゃないって」

その言葉を聞き、首領ネズミは驚愕した。

確かにチーズケーキを焼いて自分の為だけに利用していたのは確かだ。

だが…。 息子じゃない…、その言葉に胸が打たれた。

「…そのオーブンはタダでお譲りしま〜す… もしかして〜!!」

と言い、下の階へと下がっていく階段へと走っていってしまった。

「タダだってさ。カフェオレ」

「タダデモイイデス、モシカシテ〜。イッショウ オーブントシテ イキテイク コトニナルカト チョット フアンニ ナッテタデ〜ス モシカシテ〜。
タスケテモラッテ コウイウノモナンデスガ…イロイロ カンガエタンダケド、オレ、マバスノ ブヒンニナル カクゴデキタ」

うるうると涙は…出ないが、カフェオレの声が震えていた。

「サキニ マバスヘ カエル。 マバスヲ… ミタラ… オレノコトヲ… エグッ オモイダシテ… サヨウナラ ナノデ〜ス!!」

と一気に走っていってしまった。



「カフェオレ!!待って!!自棄をおこさないで!!」

「カフェオレは魔バスに戻るって言ってたよな!? 私たちも後を追おう!」

「全く…仕方ないわね…」

一人一人言いたいことを言い、カフェオレが去っていった方向へと進んでいった。



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