リクは再び温泉へと足を運んだ。

また一人きりで…。

そして、いつもの「ゲゥグレンドゥ」に声をかける。

「君は…違うよね? あんな野蛮なモノとは違うよね?」

ああ、そうだ と影から声がした。

「…でも、君も同じエニグマ…なんだよね?」

ああ と影は揺らめく。

『怖いか…?』

「ううん。 君は暖かくて気持ち良いよ」

『いつもそういう風に言う…。 お前は本当に優しいな、リク』

「ホントの事だもん」

『リク、一つ忠告をしておく』

そう言い、影はリクだけを見つめていた。

『我らはもはや「融合」している状態だ。 だがお前の中で蠢いているものは我らのシンクロを妨げるものではない。
決してそれを拒んではいけない…。 分かったな』

「分かってるよ。 僕の中にいるのは…」

そう言い、そっ と自らの心臓部分を撫でる。

「僕をずっと見守っているものなんだから」





進化とヒカリ風邪





「にしてもカフェオレはどこまで行ったのかしら…」

と溜息をつくブルーベリー。

「まぁ、とりあえずは裏門を守っているドワーフ達が知っている筈だ。でもさ・・・」

とレモンはふと耳をぴくぴくさせる。

「なにやらさっきから断末魔のような笑い声のようなものが聞こえるような・・・」

「・・・レモンの気のせいじゃないわね」

「私もしっかり聞こえてますの!」

とペシュすら主張する。



そして裏門に辿り着いた一行が見たものは珍しい光景だった。

あひゃひゃと笑うヘンテコな魔物。

その周囲で門番をしている筈のドワーフ達だった。

何故かその場でくるくると回されていた。

その光景に呆然と立っている少女達を見るやいなや、ヘンテコな魔物は挑発をしてきた。

「何だぁ〜? お前達わー。 お前らも、こいつらのようにくるくる回してやろうかぁ〜!?」

「遠慮しとくわ」

さらりと断ったのはユキだった。

「ちょ、ユキ・・・。そこは空気読まないと―」

と、フォローするが時既に遅し。

「なんだとぉぉぉ!! 許せんぞ、オマエ!!」

「何よ、かかって来―」

きなさい、という前に目の前がぐらりと揺れ動く。

ユキは自分自身の心臓音が聞こえてきた。それもどんどん強く・・・。

どぉん、という音と共にヘンテコな魔物は城壁に派手にぶつかった。

「ぐおぉぉ・・・許せーん! 許せんぞ! 覚えておけよー!!」

そう言い、ヘンテコな魔物は城壁を軽々飛び越え、どこかへと消えていってしまった。

「いんやー!!助かっただー!!」

「もー、感謝カンゲキアメアラレだべ〜」

「アイツは、ブッチーネ3世っつー、バケモンでよ〜。ドワーフを廻し始めたら死ぬまで止めねんだー」

「いんや、命びろいしたないや」

「んだずー。命のおん人だ。この門は自由に通ってけれ」

「ありがとう・・・。 でも・・・」

ブルーベリー、レモン、ペシュはふと胸を押さえながら苦しんでいるユキを見つめた。

「大丈夫・・・? ユキ・・・」

はぁはぁ、と息苦しそうにしていたユキだが、途端にいつもの冷静な顔に変わり

「平気よ。ありがとう」

と言い、軽々と歩いていった。

「大丈夫なのかな・・・ユキ」

「本人が大丈夫って言ってるなら大丈夫じゃない? それよりも早く行かないとね」

そう言い、門をくぐり抜ける。



くぐり抜けると、そこにはまたもやドワーフが居た。

が・・・。

「通るのは勝手だけんども・・・。おめさ、キード・モンガにゃ入れねーだぞ?わがってんだか?」

「あに言うだ。同じドワーフでねげ。ちょっくら機械を借りに行くくれー、構わねべさ」

「オラたちゃ、エリートだー。おめーたち、人形弄りしてるよーなドワーフと、一緒くたにするんでね」



「ドワーフ同士でもめてるみたいね」

いつもの如く冷静に言う、ユキ。

「まったくもう!!ケンカはいけませんの!!私がしかってあげますの!! ・・・って」

「ショコラ!!」

とレモンが叫ぶ。

ショコラはのんびりとした口調で「あー。レモンー」と声を出した。

「ショコラ!!無事だったのね!!」

とブルーベリーはほっとしながら言う。

だが・・・再会の時は直ぐに終わりを告げた。

「ありょ?追っ手さ来ただか」

といい、下っ端ドワーフはショコラを押しながら逃げていった。

「あっ!!逃げますの!!」

「追いかけるぜ!!」

そう言い、ダッシュして行こうとしたが・・・。

「っ・・・!!」

どさり、と何かが倒れる音。

「皆待って! ユキが!」

全員振り返ると、ユキがばたりと倒れていた。

「ユキ! しっかり!」

そう声をかけるが、大量の汗と苦しそうに呼吸をしているユキには到底聞こえない。



その様子を1匹だけ観察しているものがいた。

それはまだ幼く、可愛い尾を左右に振っている。

『あの方にお知らせしなくっちゃ!』

クスクスと笑うそれは黒い空間を生み出し、そこに飛び込んでいった。



飛び込んでいった先は広い草原。

先程の森林地帯とは違う世界だ。

『シルト様〜!』

ぱたぱたと小さいそれは人間の影を見るや、走っていく。

「プーク。どうした?」

シルトはプークを見て、その小さな身体を抱き上げる。

『例の人のチカラが進化しそうなんです! それをお知らせにきたです!』

「・・・ほう」

『でも例の人が苦しそうなんですよ〜。 何ででしょうか?』

プークの一言にふっとシルトは微笑む。

「全ての生物はその身体に対して適正のチカラのみしかもっていない。 だがあの子は違う」

『そうなんですか〜?』

きょとんとした顔で見つめてくるプークに対し、シルトはプークを地へと下ろす。

『・・・不安・・・なのですか?』

「当たり前だ」

『ですか・・・』

「プーク、少し頼みたいことがある」





* * * * *





夜。 丁度良いところに湖の畔らしきところがあったので、レモン達一行はそこで野宿をすることにした。

が・・・。

「ユキ・・・目を覚まさないね・・・」

昼頃に倒れてから一向に体調が回復しない。 それどころか、ますます悪くなっている程。

「このままじゃ・・・ユキ、死んじゃいますの!」

「物騒な事言わないでよ、ペシュ」

「でもでも・・・どうすればいいのか・・・」

『ふっふっふ、お困りのようですね!』

ざっと現れたのは小さい存在。

「な・・・」

「エニ・・・グマにしては小さいわね」

「私よりも小さいですの!」

『小さいのは気にしないで欲しいです! それよりも・・・』

さっとブルーベリーに手渡したのは一錠のカプセル型のクスリ。

『これをそこの人に飲ませれば大丈夫です!』

「あやしいわね・・・このクスリ。 どんなのが調剤してあるのかしら」

『えっと・・・ですね。 これを見れば・・・と』

そして懐(?)から出してきたのは一枚の紙。

「どれどれ・・・?」

さっとレモンが小さいエニグマからその紙を奪い取った。

『ちょっと! 返すですよ!』「えっと、[カッコン、マオウ、ケイヒ  添加物としてセルロース、メタケイ酸アルミン酸Mg、カルメロースCa、ヒドロキシプロピルセルロース、ステアリン酸Mg、乳糖]?」

「それって、普通の風邪薬じゃない! これはそれとは違うのよ?」

『どう見てもこの人がなっているのは風邪ですよ! ヒカリ風邪!
光属性が発症して光属性しか感染しない珍し〜い風邪ですよ!』

「でも、光属性なんて誰もいな・・・あ!」

小さいエニグマの発言からブルーベリーは答えが当てはまった。

「宮殿! 光の宮殿ね!」

『そうです! 正解です! 貴方は頭が良さそうですね。
あそこは光属性が一気に抜かれて微量な光属性しか浮遊してない場所ですので、こういったものが自然的にヒカリ風邪に感染されていることがありますです』

「じゃあ、コレを飲ませれば・・・」

『です! でも、私はこの辺で失礼します! また何処かで会いましょう!』

そう言い、小さいエニグマは次元の穴に飛び込んでいってしまった。

飛び込んだ後はその次元の穴はすっと消えてしまった。



「ちょっ・・・ちょっと!! 消えるの早いわよ・・・」

慌ててブルーベリーが消え去った場所を見る。

そのブルーベリーの後ろで「良いエニグマだった」と感想を述べている2人がいた。







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