リクは感じていた。

自分の中からなにかが蠢き、それが自分の周囲へと渦が巻くのを…。

それは邪悪でもなく、神秘的でもなく、ただ無垢な存在であることを…。

その存在はリクの中で声を発した。



「…マモる」



光の宮殿 後編





「っ…。なかなかしぶといわね」

ユキはそう呟き、また光の精霊を呼び出そうとする。

だが、先程のかすり傷がよくよく痛むのか、ユキは苦い顔をしながらエニグマ―ダブハスネルを睨みつける。

さすがにその様子を見て、キルシュが後ろを振り返った。

「ユキ! 大丈夫か!?」

「え…ええ…」

「ペシュ、早く回復を…」

「わかってますの!」

そう言い、慌てて愛の精霊の力を利用し回復を回すペシュ。

ダブハスネルはその光景を見て、くつくつと微笑した。

「素晴らしい友情だが…もはや遊びはここまでだ…」

そう言いダブハスネルは闇の魔法を唱えだした。

「光の精霊を操る者、何故ここにあった筈の光の加護がなくなっているか分かるか?

それはな…我らの主とも呼ぶ存在がこの宮殿全ての光を奪ったからだ。

その為、我らの存在も消し去る加護も今やここまで力を失ったわけだ」

ダブハスネルはそう言い終わると、キルシュ達の中央に強大な黒い渦が出現した。

「闇に堕ちるが良い…【ブラック=ホール】」

その言葉が告げられた途端、ユキを残した全員がその場から消えた。

「皆っ!!」

ユキは走っていこうとしたが黒い空間に閉じ込められた。

「おっと、お前は光の加護無しでも我らに対しては危険な存在だ。ここで大人しくしていろ」

にやにやと2匹のエニグマが笑っている。

こうなったのは、自分自身に対する「光属性の為の余裕」…そのものだろう。

そう思い、ユキは久しく涙を流した。

「皆を…皆をかえせぇぇぇぇぇぇ!!」

そう絶叫すると、何か凄まじい力がユキの中から溢れ出した。

ぴくり、と「何か」がそれに呼応し、動いた。

槍の形になった「光」はまるで神の怒りの如く、2匹のエニグマの堅い甲羅を貫いた。

「そ…それはまさか…」

「ぐおお、なんだこれは…」

そう言うと、2匹ともその光に飲み込まれていった…。



「何か」は目を開き、そこにいる造られし存在に声を掛けた。

【我が「光」が目覚めた…だが、まだ此処に来ることはないだろう…。

全てのエニグマを光と闇のプレーンに集結させ、「光」をもっと強くさせろ】

『御意』



「光」はまるでクッションを敷くようにキルシュ達を闇の渦から助け出した。

「わ…私たち助かったですの?!」

「ああ、そのようだが…」

キルシュは倒れているユキを見つけた。

「ユキ…ユキ!! しっかりしろ!」

「ん…。私どうなったの?」

「ユキのお陰で、私達助かったのよ!」

「あ…そう、なの?」

「そうですの! もっと胸を張るですの!」

そう言い、自分が胸を張るペシュであった。

「それよりも、リク達が心配だ。早く外に出よう」

「…そうね! 行きましょう」

そう言い何事もなく歩き始めるユキだが、どうやってあの強大な強さのエニグマを倒したのか 全く覚えていなかった。

首をかしげながらも歩いていくが、先程の親衛隊の姿が目の前にないのに気が付いた。

全員、ふと後ろを振り返る。

そこには、呆然となっているムs…じゃなくってトルティーヤらの姿があった。

「ムスコさん…助かりやした。あっしら 助かったっす!」

涙声になりつつもタルトはそう言った。

「そう…エニグマが死んで…オレたちは 助かった…」

「そうですともムスコさん!!あっしら助かったんだ!!村長ワンドは…折れてなくなった。しかし、そんなモノ!! 人の命にくらべりゃ、屁みたいなモンだぁ!」

タルトとタタンが純粋に無事を喜ぶ中、どん! と地面を素手で叩いた。

「助かったからなんだって言うんだッ!!
戦わなければ 生きていけないなら、なぜオレは愛の大使なんかに生まれてきたんだ!!
オレはもう…愛の大使なんかじゃない…生きてる資格なんてない!!」

そんなトルティーヤを哀れだと思い、ブルーベリーが声を掛けた。

「あまり思いつめないでトルティーヤさん。 私もぺシュとの付き合いが長いし、愛の大使の考え方はよく分かるわ」

「… …」

無言のトルティーヤに対してブルーベリーはぺこりと礼をした。

「ありがとう、トルティーヤ」

「あたしも感謝してますの!!ありがとうですの!!トルティーヤちゃん!!

「センキュ〜トルティーヤ。オレも感謝してるぜ」

「ありがとう!ムスコさん?」

「まぁ、あんた無しじゃ、何も出来なかったから。感謝するわ」

「ムスコさん!!あっしらも!!」

「トルティーヤどの!!村へ帰りましょう!!ワクティ村の村長として!!」

全員の礼に対し、じんわりきたのか…。

「ありがとう、しんえー隊。それに、みんな…。また、どこかで会おう…!」

そう言い残し、トルティーヤは一人で行ってしまった。

「トルティーヤどの!!」

「お待ちください!!」

タルトとタタンもトルティーヤを慌てて追いかけて行ってしまった。

唯一のクラスメイトでの愛の大使であるペシュは残念そうにこう言った。

「しかたがないことですの。 エニグマが敵だとは言っても 戦って、相手が死んでることに変わりはないですの」

「確かにそうね…。でもそれだと私たちがやられてしまうわ。あの時は、全員力あわせて戦うしかなった…そうするしかなかったの」

「とにかく外に出ようぜ。さすがにリク達が心配だ…」

「そうね。それと、答えを探しに。どうしてエニグマが 私たちを狙うのか、はっきりさせないと今の気持ちを変えられない」

そう言っているが、さすがに病持ちのブルーベリー。立ち上がるとふらりとなってしまう。

(ブルーベリー だいじょうぶ?)

アランシアが心配そうに小声でブルーベリーに声を掛けた。

(私はいいとして、ユキが気になるわ。あんな強大な光の力…見たこと無いもの)





光の宮殿の外に出た時は穏やかな夕焼けが見え始めていた。

ユキ達の目の前にはぼろぼろになっているリク達を見つけた。

いや、不思議なことに リクのみぼろぼろの状態だったのだ。

「なんでそんなにぼろぼろになってるんだよ、リク」

「え〜、だってこっちには回復役一人もいないんだから。仕方ないんじゃないの?」

「だが、それでもリクは愛の魔法も掛けてくれたんだ。寧ろ感謝しないと」

「えっ! あんた愛の魔法も使用できたの?」

「あ…ま、まぁね」

「すごいですの! お仲間ですの!」

そう言い、ペシュはリクとぎゅっと手を繋いだ。

「裏門のドワーフたちが古代機械がどうのと言ってたからその先に行ってみる必要があると思って、ブルーベリーたちを迎えに来たんだ。

そしたら、エニグマとはちあわせしてしまって…。正直、リク達が来てくれなかったらヤバかったかもな!

しかしこれじゃ…人数が多すぎやしないか?」

「確かに、あまり人数が多いと逆に危険だね」

じゃあ、とレモンが提案をしてきた。

「チームをわけて、一部は魔バスで待機しよう。あの中なら、モンスターも襲って来ないし安全だ。

そういうとレモンがブルーベリーをちらりと見る。

「わ…私、残るのは嫌よ。戦うわ!」

「ブルーベリーちゃん…」

戦う決意をしたブルーベリーを切実に見る、ペシュ。

「ありがとう、いつも気を使って貰って。でも、私だけ残るのは嫌。絶対に嫌!」

「気持ちはわかるけど、カラダは大丈夫なの?」

「心配しないでよ。大丈夫に…うっ」

そう言うと突然ブルーベリーが蹲ってしまう。

その様子を見て、リクは溜息をついた。

「…ダメじゃん。無理するぐらいなら皆と一緒に行かない方が身の為だと思うよ?」

そう言い、リクがブルーベリーに手を差し伸べた。が…。

ぱしん、とブルーベリーはその手を振り払う。

「除け者にしないで!!私だってやれるわ!!たしかに私…生まれつきカラダは弱いけど。でも、そんなこと気にしないで、普通に接して欲しいの!」

「できないよ…特に今は。下手すりゃ、アンタを死なせることになる」

「私に、一生みんなから 外れて生きて行けって言うの!?
小さい頃からずっと、パパやママから『お前は長生きできない』って言われてきたから、私死ぬのなんて怖くないよ!
長生きしたいなんて少しも思ってない!! ほんの少しの時間でも 皆と一緒にいたいの!!」



ぱぁん!



突如、リクから放たれたビンタの音にその場にいた全員が驚いた。

「君の言いたい事分かるよ。でもね…『死ぬのが怖くない』『長生きしたくない』なんて言うなよ!!
そこで傷ついてしまうのは両親と周囲にいた優しい親友達だろ!?」

「…リクちゃん…」

「いっしょに行くのはかまわない。でも、条件があるわ。
カラダの調子が悪い時は、すぐに言うこと。
自分だけで抱え込まないで、ちゃんと私や他のみんなを頼らなきゃ駄目よ?
それが守れるなら…もうあなたを一人で待たせたりしないわ」

「うん…。ありがとう…レモン、リク。ゴメンネ…私、迷惑ばっかかけて…」

「OK。行こう、ブルーベリー!
とはいっても、大人数がキケンなことに変わりないよな。
ねぇ…カフェオレのことは、私とブルーベリーとペシュに任せて欲しいの。いいでしょう?」

そう言うとその場にいたキルシュはこくりと頷いた。

「誰もオマエを止めたりしねぇよ。どうせ、ダメだって言っても行く気なんだろ?」

「ユキちゃんもいっしょに行きますの!」

「ユキも…?」

「そうね…。これから大量の闇属性の魔物が出てきてもおかしくはないし。私も行かせてもらうわね」

「それじゃあ、僕らはお言葉に甘えて魔バスで待機してるわ。後、ついでに一風呂はいるかな」

「ん? リク、風呂が何だって―」

レモンが疑問符を出している隙に、リクは出口へと言ってしまった。

「リク、待つっぴ! 置いてきぼりにしないで欲しいっぴ!!」

消えていったリクを追いかけて、ピスタチオも駆け走っていった。

その光景に溜息をつきながらキルシュも出口へと歩いていく。

「やれやれだぜブラザー。ま、怪我しないように頑張れよ」

「頑張ってね!無理しちゃダメだよ! 無理だと思ったらいつでも魔バスに帰って来るんだよ!」

「分かったよ。そっちも帰り道、無事でね」



先程まで賑やかだった宮殿前も、まるで嵐が去ったかのようにしん、としていた。

「さぁ、それじゃ行こうか」

そう言い、レモン・ブルーベリー・ユキ・ペシュは宮殿の北西にある門へと目指していった。



そこにあるのが闇の者の罠だと知らずに…。







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