「はぁ…はぁ…」

「ブルーベリーちゃん、しっかりするですの!」

「だ、大丈夫よ…ペシュ」

ブルーベリーは胸を押さえながら、宮殿の柱にもたれて座る。

「だ…誰か呼んでくるですの!」

そう言い残し、ペシュはパタパタとその場から離れていってしまった。





光の宮殿 前編





レーミッツ宮殿。

光の加護を受けし王国が築き上げたと言い伝えられている王宮。

その為か、恐らくは光のプレーンの中で唯一光属性のモンスターが住み着いている。

「それなのに、何故闇属性のエニグマがここにいるのかが私には分からないわ」

不満そうにエニグマと同じ闇属性のリクを見つめる。

「うーん…。恐らくは存在自体は大丈夫だけど、力は発揮出来なかったり…とか?」

ユキとリクはエニグマの事を話しながらもこつこつと道を歩いていく。

「おーい、そこのお二人さーん!」

前を歩いていたキルシュ達がユキとリクに声をかけてきた。

「あれ…もしかすると…」

そう言い、斜め上のレーミッツ宮殿の城壁の上の道に久しぶりに見かける後姿が。

さらにその後姿と対立しているエニグマを見ることが出来る。

その後姿は突然くるりと振り返り、リクたちの姿を見るや否やこう言った。

「よう!ジゴクへようこそ!」

「レモン〜そんな挨拶はナシよ〜」

強烈なレモンの一言にアランシアは嫌そうに言う。

「くっくっく…いい仲間を持ったものだ。しかし、安心するがいい。殺しはしない。
オレたちの宿主になってもらう。光のプレーンで自在にふるまうためにはオマエたちが必要だからな!」

「ひぇぇぇぇ…嫌だっぴ!そんなの嫌だっぴ!!」

「まぁピスタチオ、僕達からは結構距離間あるから大丈夫だけどね」

「でもやっぱりリクが言っていたとおり、あのエニグマは何だか辛そうね。そんなに嫌なのかしら、光のプレーンって」

「って、冷静に見てる場合じゃないだろ…。レモンが危ないんだぜ、レモンが」

「あっはっは、そうだった。ってことで」

魔法を唱え、それをエニグマにぶつける。

だがそんなに威力は無かったらしいが…エニグマはレモンを睨みつける。

「お前から…宿主になりたいようだな」

「ほらほら、しっかりと掛かってこないと逆にやられるぞ」

そう言い残し、エニグマとレモンはまるでかけっこをしているかのように奥の道へと消えていってしまった。

「忙しいお姉さんだっぴ」

「…お前、緊張感の無い一言コメントやめろよ」

「それはいいけど、レモン 本格的にマズくない?」

緊張感がまるでないキルシュとピスタチオに対し、本気で不安がるユキ。

「…ああ、やばいだろうね。それに何だか誰かを庇っていたように逃げていったし」

「もしかすると…」

リクの言葉にアランシアが反応した。

「ブルーベリーとペシュがいないとすれば…もしかしたら、ブルーベリーの発作が…」

「発作!? 発作なんてあったのか!?」

「分からないけど〜…」

「その話が本当なら、一旦二手に分かれてみても良いかもしれないね」

そうリクが提案し、分かれてみた。

宮殿内にいると思われるブルーベリーとペシュを探すのは、ユキ キルシュ アランシア。

そして宮殿の城壁の上の道でエニグマと苦戦中のレモンと合流するのは、リク ピスタチオ。

「ってなんでだっぴ〜!」

一番不満そうなのはピスタチオだ。

「まぁ、リクがいるから安心でしょ?」

ユキは悪魔の微笑をした。もしかするとある種、ピスタチオを苛めるが為のパーティー選びかもしれないが…。

「じゃあ、ブルーベリーたちを探すから レモンとあのエニグマを倒してこっちにきてね」

ピスタチオがいつも通りの突っ込みをいれる前に、すたこらとユキのパーティーは宮殿の中へと入っていった。

唖然としているピスタチオにリクは優しく肩を叩いた。

「まぁピスタチオ、元気出してよ。それに、そんなに嫌だったらピスタチオだけ魔バスへ待機していてもいいんだよ?」

リクの優しい声に、ピスタチオは首を横に振る。

「や…やってやるっぴ…!怖くなんて…ないっぴ!」

ぷるぷる震えながらも、ピスタチオは言った。



* * * * *



宮殿内は、しんと静まり返り何も気配を感じない。

「ブルーベリーとペシュは、まだ奥の方にいるのかしら〜」

「とりあえず、愛のウィッシュと水のフローの濃い気配はする」

「本当か! じゃあ―」

行こうぜ、とキルシュが言いかけた刹那。

「ここまでだ!宮殿への立ち入りは許さん!!」

大きな声が宮殿内に広がった。

ふと、前を見るとムスコさん…じゃなかったトルティーヤ率いる部隊がいる。

「お前達のため言ってるのだ。エニグマの話は聞いているだろ?
そいつがこの中にいることが分かっている。お前達では危なすぎる。早々に立ち去るがいい!」

「危険なんかいつも承知の上だぜ!」

「承知だと…!? お前に何が分かるか!!この中にいるエニグマは恐らく3体。しかも、手ごわい相手だ」

「1体は外にいたし、私たちの仲間がそれを退治にいったわ。それに、この宮殿の中には私たちの仲間がいるの」

その言葉を聞いてトルティーヤは愕然とした。

「不用意な…。何故わざわざ危険な場所へ…」

「ムスコさん…。あっしらも力を貸して共にエニグマを倒すのが良いのでは?」

「倒す…。誰も彼もが口を開けば倒すだの、何故倒す必要がある!奴らが何をした!? 光におびえ、宮殿に引きこもっているだけの相手を…!!」

「言っておくけれど、エニグマは光になんて怯えてはいないし、引き篭もってさえもいないわ。
だからこそ、倒さなければいけない相手だと思ってる。倒さなければ…こっちがやられるわよ」

「ムスコさん…あっしらも愛の大使の端くれ。ムスコさんの気持ちはよーく分かりやす。
しかし、今は人を助ける時。誰も手を汚さずに、生きていける時代ではありやせんぜ。手を貸してやりやしょうよ」

「しかし…」

「あーもう!私達は先に行くわ! もうどうにでもしなさい!」

そう言い、ぶちぎれて先へと行くユキ。

「俺たちだけでやるさ。お前はここで待ってな!」

それに同感というように、キルシュ アランシアも続いて奥へと進む。







広い宮殿の中を数分ほど彷徨っていると、なにやら向こうの方から声がする。

キョロキョロしているペシュだ。

「あ! 皆、大変ですの!! ブルーベリーちゃんの具合が悪くなって動けなくなって…えっと、それからそれから―」

「ペシュ〜、落ち着いて最初からちゃんと話して〜」

「あ…あうー、最初ってどの辺からですの〜?」

キルシュがはぁ、と溜息をつく。

「やれやれだぜ。まず何故レモンが外でエニグマの囮になっている訳から話しな」

段々落ち着いてきたのか、ペシュはこくりと頷いた。

「3人で門の所でエニグマに襲われそうになって、レモンちゃんが囮になって、私たちを逃がしてくれましたの」

「…それで?」

「この宮殿の地下で待ち合わせしてたけど、ブルーベリーちゃんの具合が悪くなって…それで」

「…誰かを呼んでこようと思ったのね。そして…」

「…迷子になってしまいましたの」

「アランシアの言う通りになっていたのね。とにかく、ここの地下にいるってことは分かっただけでもかなり良い情報だわ。早速向かいましょう」

ユキはそう言い、4人は奥へ奥へと向かっていった。





* * * * *



「くっ…」

レモンは思わず後ずさった。

ぼろぼろになったニャムネルト族特有の猫耳とふさふさの尾。

その光景にエニグマはにやりと黒い笑みをする。

「まずは、お前から融合をしてやろう…」

そう言い、レモンの方へと歩み寄ろうとした。

刹那。

黒いダイスがエニグマを襲う。

魔法を唱えながら来る二人の少年の姿。

「…リク、ピス!」

「レモン、大丈夫だった?」

「ああ…。ありがとう、リク」

そう言い、レモンはリクに微笑んだ。

「くっくっ、お前も闇属性か…。しかも純度が高い。これは良い融合者に巡りあえたものだ」

「そう?そんなに褒めてくれて、感謝するよ。でも…僕達の仲間を傷つけたのは許せない!」

リクはエニグマを睨みつける。が、隣にいるピスタチオはぷるぷると震えていた。

「力に屈しちゃ駄目だよ!ピスタチオ!」

「わ…分かってるっぴ…!」

その光景にくつくつと笑うエニグマ。

「ふん。闇に抗うなど、虫けらのやること。さあ、かかってくるがいい!そして俺達の宿主となるが良い!」



* * * * *



地下へと来たユキたちの目の前にブルーベリーの姿が見えた。

ペシュが慌ててブルーベリーの元へと走り出す。

「ブルーベリーちゃん! 大丈夫ですの!?」

ブルーベリーは胸を押さえ、4人の仲間の姿に微笑んだ。

「無事だったようね…ペシュ、それにキルシュ アランシア ユキ…」

そう言い、柱を支えにして立ち上がる。

「ブルーベリーちゃん!休んでないといけませんの!」

「分かってるわ…」

「エニグマは外に1体いるとして、後2体いるらしいな…。どうする?」

「あんな奴が2体もいると、弱点である光属性の私でもなかなか倒せないかもしれないわよ?」

真剣な顔でユキは言った。

「リク達が1体と対峙している今がチャンスだな。残りの奴らを1体ずつ誘い出せば…―」

刹那。

「ひっひっひ…」

不気味な笑い声が宮殿内に響き渡る。

「どこから…来るですの!?」

その場にいる全員が周囲を見渡す。

先ほど、ブルーベリーがもたれ掛かっていた柱の周辺から1体のエニグマが現れた。

「死を目の前にして、同じことが言えるかな?くっくっく」

「1体ぐらいなら別に大丈夫よ! 行くわよ皆!」

そう言い、全員 戦闘態勢に入った。

が。

「・・・そいつが戦っている間…俺は何をして待ってれば良いんだい?」

後ろから不気味な声がした。

恐らくは、目の前にいるエニグマと同じ形をしたエニグマだろう。

「くっ。挟み撃ちか」

「やっぱり闇属性はやることが違うわね…。卑怯すぎるわ」

ユキは憎まれ口を呟きながらも、前後にいるエニグマを睨みつける。

「褒めてもらって嬉しいよ。くくく…」



「隙あり!!!」

後ろにいたエニグマの頭部に村長ワンドが叩きつけられる。

「くっ。まだ仲間がいたのか!?」

「ムスコさん!?」

意外な人物を目の前に、アランシアは「いつもの禁句」を唱える。

「油断するな、こっちは私たちに任せろ!!オマエたちは、そっちを!」

そう言い、ムスコさん…じゃなくて トルティーヤ達は後ろにいたエニグマと対峙し始める。

ユキは改めて、前にいるエニグマを睨みつけた。

「行くわよ!」





*TOP*

*Next*

*Back*