「で」

と天使のような悪魔のような顔をもっているユキは言う。

「これからどうするつもりなの?」

くんくん、とまるで犬のように(というか犬族)空の匂いを嗅ぐピスタチオ。

「もうこのあたりには誰もいないっぴ」

「そうね〜。トルーナ村の村長に許可貰って遺跡を通過して・・・」

アランシアの情報に驚き、「遺跡なんてあるっぴ?!」とまるで悲鳴のような声がピスタチオからした。

「全く、皆と合流の道のりは程遠く長いわね・・・」

はぁ、とユキは溜息をついた。



偽りの平和



パペットの村、トルーナ。

何百年も生き抜くパペットたちが時を止めたように毎日を過ごす場所。

何気なく平和なこの村には・・・ある闇が潜んでいた。

まぁそれはさておき。

「・・・綺麗なお姉さんだっぴ・・・」

うっとりした瞳でピスタチオは村長の孫娘を見つめていた。

名前はミルフィーユ=トルーナというらしい。

そんな瞳を気にしてミルフィーユは「どうかしましたか?」と聞いてきた。

「・・・お姉さん・・・。素敵だっぴ・・・」

「ありがとう。あなたも素敵よ。あなたみたいなキュートな子に出会うの、800年の人生の中でも初めて」

「は・・・800年!?」

衝撃な事実にピスタチオはうっかり「それじゃあお姉さんじゃなくてお婆さんだっぴ!」と本音を漏らしてしまった。

「失礼よ〜!ピスタチオ!パペットは年をとらないの!」

アランシアの怒鳴り声で、食卓のところでぼけーとしていた髭のパペットが「はひゃ」と言った。

「ミルフィーユや?ご飯かの?」

「いいえ、違います。こちらの方たちが遺跡を通りたいというのです」

ガナッシュが率直に「遺跡を通りたいのだが許可を―」と言った時はヒヤリとしたが・・・。

とにかく、なんとかミルフィーユが話を良く聞いてくれて本当に運が良い・・・というべきか。

「はひゃ。許可か、よかろう。しかし、今日はもう遅いのぉ」

「そうですね、おじいさま。ちょっとだけ遅いかもね」

「確かに、夕日が見えるからね・・・」

綺麗な夕日をユキは見つめて呟く。

長い長い一日だった。

変なエニグマという獰猛な奴らに襲われ続けて、皆が皆(ガナッシュ以外)へとへとになっていた。





今日はとりあえず宿で休むことに。

その為に宿屋に行くと、なにやらトンテンカンテンという音がした。

ひょこっとピスタチオは顔を覗かせる。

「?」

なにやら作業中のようだ。

「ああ、話は聞いてある。無料で泊まっていきな」

軽い感じで宿屋の主はそういった。

「無料だっぴ!???」

「作業の邪魔しちゃいけないから行くわよ。ピスタチオ」

とことことふかふかなベッドまで歩いていく一行。

明日はついに遺跡を通り抜ける。





* * * * * *





ふと一緒に寝ていたルクスにユキは起こされた。

「・・・どうしたの?ルクス」

珍しくぐいぐいと服を引っ張りばたばたと騒がしく動いている。

・・・寝ている間に何かあったのだろうか。

そう思い、起きてみると、そこには仲間がいなかった。

さらにルクスはぐいぐいと腕を引っ張ってきた。

「・・・外?」





「死んでマスわん!!死んでマスわん!!殺されたんでスわ〜〜ん!!!!!!!」

一人のパペットが悲鳴を上げる。

その中央には赤く染まったパペットが一体。

「どうしてっ!!どうして私たちがこんな惨めに殺されなきゃいけないの!?」

ミルフィーユも現場にいたのか、パペットの死体の傍で激しい悲鳴を上げていた。

だが、その現場をさらに闇に染まらせる声がした。

宿屋の主、ティラミスという男。

「まいったね。またコロシですか。のろわれてますなぁ」

ティラミスの死人に発せられた軽い言葉にぎろりとパペット達が睨みつける。

だが、ただそれだけで悔いの言葉しか出てこなかった。

ただただ、そこには呪いと闇が残るのみ。

ユキの仲間達もそれを見守っていた。





「・・・ルクスが騒いでたのはこれだったのね」

ユキはぼそりと呟きつつも、泣きそうになっているミルフィーユの元へと歩いていく。

「ユキ・・・!!」

ひゅんとルクスはユキの肩からミルフィーユの肩に飛びうつり、「元気を出して」と言わんばかりにきらきらと光を発した。

そのルクスを見て、ミルフィーユの不安と悲しみは少し和らいだのか ルクスを撫でた。

「貴方はどうするの?無事に私たちを遺跡まで行かせてくれる?」

「・・・・・・」

救いの声がしたかのように、ミルフィーユはユキを見つめた。

「ちょっと!ユキ・・・!後でもいいことだから!」

必死に止めるアランシアだが・・・。

ミルフィーユはすっと立ち上がり、涙を流していたのか、瞳を拭った。

「分かってます・・・遺跡まで案内します。ついてきてください」

「そんな・・・!オイラ達、急いでない―」

その言葉を消し去るかのようにミルフィーユは一人村の外へと行ってしまった。

「ちょっとユキ!私たち・・・」

「貴方達は何も出来ない。私もね。ミルフィーユに対しては涙なんかいらないの」

悲しそうにユキは呟いた。

「・・・ユキも苦しいんだね。ごめん・・・」

「いいの、私のことは」

その話を聞いていなかったのか、それとも聞かなかったふりをしているのか。

「そっぽ向いたということは、俺たち余所者でしかないってことだ。厄介払いしたいのさ」

先を急ぎたいのか、この暗い雰囲気を消し飛びたいのか、ガナッシュは一人で歩いて先へと行く。

「まぁ、乱暴な言葉だこと」

いつものとげとげしいユキの言葉がガナッシュのところへと飛んだ。







遺跡の中へと進んでいく一行。



ベナコンチャ遺跡はこの光のプレーンでは一番に古い遺跡とも言われている。

ところどころ、ぼろぼろになったところはあるが、まだ崩れずにそのままの形で置いてある不思議な場所だ。

その奥に一羽の太った鳥が飛んでいた。

その目の前には・・・。

「ティラミス・・・?」

意外な人物の出現にキルシュは驚きを声に出した。

ティラミスは微笑み、ミルフィーユに振り向き、言う。

「やぁ、ミルフィーユ。また一人死んだね。君はどう思う・・・?」

「どう・・・って貴方は悲しくないの?その前になんで貴方がこの遺跡に?」

そう。

この遺跡はたとえ村人であっても立ち入ってはいけない聖域。

それに鍵となるウークルの羽がないと入ることさえ出来ない。

だから、ここにティラミスはいない筈なのだ。

「さあ・・・そんなのどうでもいいじゃないか」

くつくつと笑うティラミス。

「不気味な人ね。貴方が村人を殺してるんでしょうが」

「こいつが・・・!?」

キルシュは身構え、ティラミスを睨みつける。

「ルクスが震えてたのよ。彼を見て」

「たったそれだけで俺を殺人犯にするってのか」

「精霊ってのは貴方のように単純じゃないって事よ。特に生と光を司るルクスは死は嫌いなの」

「ふん・・・。余所者になんと言われようが関係ないな」

「だったら余所者の近くでそんな話をしないことね」

「ティラミス・・・貴方は何で村人を殺すの・・・?」

ミルフィーユの震える声が遺跡内に響く。

「・・・ハートだ」

静かに、ティラミスは言った。

「ハート?」

「そう、それさえあれば俺の弟を生き返らせることが出来る」

「不可能ね」「不可能だな」

光のユキ、そして闇のガナッシュの声がはもる。

「・・・!?」

「生きるということはそう簡単じゃないわ。何らかのリスクをとらなけばいけないし」

「死ぬということは簡単かもしれないが、それを生への転換なんてことはできない」

二人の半人前の魔道士をティラミスは睨みつけた。

「分かった。だったら・・・」

すっと、手を上げて怪鳥スノウヘアに指示を出す。

「全員まとめて殺してやるっ!!」

「ふぁひゃー!!!!」

奇妙な鳴き声と共にすっ飛んでくる大鳥。

飛んできた大鳥はすさまじい衝撃を繰り出した。

「ふぁひゃああああ!!」

鳴き声はけたたましい以上うざったいものはないだろう。

「うわぁ」

無様にキルシュは倒れた。

隣でも倒れているのがいつもの一匹だが・・・。

「馬鹿ね・・・」

ほぼ鬼畜的な言葉がそこで出てきたので、いらっとしたのか、倒れたまま火の魔法を唱える。

『あたれぇぇ!ホットグリル!』

普通なら当たらないであろうホットグリル。

だが、キルシュの幸運なのか。見事に大鳥にヒットした。

「ひゃああがぁぁぁぁ!」

しかも何故か燃えやすいのか、ほぼ黒焦げ状態になってしまった。

(そうか・・・!コイツ、風属性なのか)

風の属性には火の魔法がよく効くと学校で勉強したが・・・まさか本当とは。

だが、効いているとはいえ倒せる所までいっていない。

(でもここまで効いているならば・・・)

「当たったぜ、ユキ。もうこれで文句はないよな!?」

「ええ。よくやったわね」

手のひらにきらきらと光るのはルクスが作り出した光だ。

『スターライト!!』

大鳥は鳴くことは無く、静かに消え去っていった。





彼女らが大鳥と対峙している間。

「・・・・ ミルフィーユ、宿屋で待っている。オマエは必ず来ると俺は信じてる」

先に帰っていってしまったティラミス。

どう咎めることもなく、行ってしまった。

ミルフィーユは戦っている彼女らを見て、決意をした。

今、ティラミスは自分しか見ていない。

なら・・・町長の娘として何をするか。

答えは当然。

自分を差し出すことだ。

「・・・私も帰る。私たち二人で話しあうと、彼らに行っておいてくれるかしら」

分かった、と一言だけガナッシュは言う。





大鳥を倒した彼女ら。

ふとティラミスとミルフィーユの姿が無い。

「彼らは・・・!?」

「帰ったよ。二人きりで話をしたいんだってさ」

そう、とユキは一言で終わらせた。

「って、帰ったらミルフィーユが・・・!!」

「俺はもう少し、トルーナ村の周辺で皆を探してみる。ユキたちは先に行っててくれ」

分かったわ、とユキは一言で終わらせた。

その言葉を聞いた後、ガナッシュはその場から立ち去っていった。

「って・・・!!」

「まぁ、一番気になっていたのはガナッシュだったって事ね」



* * * * * *



ベナコンチャ遺跡入口にてティラミスは隠れて待っていた。

本当は「信じている」なんていうのも嘘だ。

そして、彼女は絶対に帰ってこないという考えでもあった。

だから驚いた。

ぱたぱたと慌てて村の方向へ行く彼女の姿を見たときは。

「・・・なぜだ、ミルフィーユ!なぜ、殺されるとわかって帰ってくるんだ!」

以前から、彼女のことが気になっていた。

「ハート」とか、そういうのを抜きで。

そう。彼はミルフィーユのことを一目惚れしていたのだ。

だが、その直後彼の身に起こったのは「弟」の死だった。

それが衝撃的で、その時に冷たく煽られた。

『どうせ、俺たち一人ずつ壊れて死んでいく運命なんだよ。いつかは滅びるんだ・・・』

それが・・・怖かった。

ふと、寒さを感じた。

いや・・・この寒さは・・・―。



* * * * * *





漂う水の中で僕は眠っていた。

でも、これは眠りなのか、分からない。

水と同化した様な・・・そんな気分だ。

暗闇の奥に、なにか見える。

温かく、冷たく、獰猛で、優しく。

よくは分からないが自分を見守っているような・・・。





遠くから、僕の名を呼ぶ声がした。





「ん・・・」

ふと目を開かせてみた。

「リク!やっと目覚めたか!」

とりあえず「うん・・・」と言ってみる。

目の前にはバルサミコがいた。

「バルサミコ・・・一体あれから何があったんだ?」

「エニグマの奴らに飛ばされたのさ」

エニグマ。

あの赤い奴が名乗っていた・・・。

確かにあの赤いエニグマと対峙はした。

でも途中で記憶がない・・・。

「で・・・。皆は・・・?」

「とりあえず見かけたのはカフェオレとペシュとレモン。そしてブルーベリーとガナッシュ。
ペシュとレモン、ブルーベリーは逃げたカフェオレを追いかけていっちまった。ガナッシュは一人で勝手に」

まぁガナッシュは分かる。が・・・。

「・・・カフェオレはなんで逃げたのさ」

「部品を取り出そうと思って、カフェオレのハラ開けたのさ。
こっちの世界に飛ばされた時に、そのショックが激しかったのか魔バスが壊れてしまったんだ」

「・・・はぁ・・・」

なんだか脱力感が出る話だ。

「まぁこの近くに温泉があるから、目覚まし代わりに行って来い」

ひょいっと出されたのは一つのタオルだった。







ということで今僕は風呂場へと来た。

ぽちゃりと身体をお湯の中へと入れる。

「ほぁ・・・」

ぐん、と体が熱くなる。

あの夢みたいなものもそうだった。いや・・・。

「いる・・・?ゲゥグレンドゥ」

ふわりと影が現れる。

ほっと僕は溜息をつく。

「よかった・・・。あれから接触してなかったから、嫌われたかと思ったよ」

どうした?なにかあったのか? と風のような声が聞こえる。

「・・・夢を見たんだ」

・・・夢?

「不思議な夢だった。君は見ていないの?」

いや・・・ と、すこし影は動いた。

「君にも見せたかったなぁ」

気持ちいい夢だったのか? それとも・・・。

さわりさわりという声は遠く遠く消えていく。

「確かに、気持ちいい夢・・・だったね」





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