AM9:00。

慌しいキャンプの始まりはこのオヤジの一言から始まった。

「レディ〜ス!エ〜〜ンド、ジェントルメ〜ン!! 本日は、当バスをご利用いただきまーこーとーに〜ありがとうございマ〜ス!!
臨海学校INヴァレンシア海岸!! 現地までみな様を案内させて いただきますのは〜? さすらいの、天才ドライバー!! ブゥワルゥスワミ〜〜コ〜〜!!
どんどんどん!! ぱふぱふぱふ!! キャ〜ッ! カッコイイ〜ッ!」

一人馬鹿みたいに盛り上がっているオヤジに対して、生徒達の反応は呆れ果てていて言葉が出ない。

「…このオヤジ、倒せばいいのかしら」

「抑えて! ユキ抑えて!! 私だって怒るの抑えてるんだっ!!」

もはやぶち切れ寸前のユキを必死に抑えているレモン。

その光景すら無視して、オヤジは叫んだ。

「それでは目的地、ヴァレンシア海岸へ向けてレディーーーーーーッゴォォォォ!!!」

一気に急発進させた為、魔バス内(というか乗っていた全員)はぐらりと揺れてまるでジェットコースターに乗っているかのような感触にさせられる。

そのまま、門すら壊し魔バスは目的地に颯爽と向かっていったのだった。



始まる事が出来ない「光」と強大なる「闇」



AM10:30。

スピードは快調。天気も好調。

だが、前席にいる一人だけはすうすうと眠っていた。

リクだ。

「良く寝てるよなぁ…」

隣にいたカシスは呟いた。

以前から、結構バス酔いが激しいリク。

なので前席を優先にされ、涼しい風を受けながら寝ている。

まるで、後ろの騒がしさに負けないように。



「ショコラちゃんは学校の近くに一人で住んでますの?」

「うん」

ペシュの質問にゆっくりとだが頷くショコラ。

「お父さんやお母さんと住んでますの?」

「んーん」

ペシュの言葉にゆっくりとだが首…というより体を横に振るショコラ。

「ショコラはずっと昔から学校近くの小山にいるのよ。 校長先生が彼の力を見込んで、魔法を教える為に学校に通わせているの」

「グラン=ドラジェ校長に見込まれてますの!? スゴイですの!!」

ブルーベリーの解説にペシュはさらに興奮した。

「オレダッテ ソウダゼ〜」

その隣でクールに自慢話をしはじめる、巷で有名なポンコツロボットカフェオレ。

空気を読まずに一番最初に魔バスに乗り込んだクラスメイトである。

「オレガ ツクラレタノハ12000ネンマエダガ グラン=ドラジェニ ミコマレテ マホウヲ オシエテモラッタンダゼ〜」

どこからかギターがなりそうな雰囲気だが、その雰囲気をブルーベリーは一言でぶち壊した。

「グラン=ドラジェ先生が骨董市で買ってきたのよね。 200ブラーで」

「安ッ! ということはやっぱりカフェオレ…」

隣でじろりとレモンに睨みつけられていても尚もクールにカフェオレは言った。

「ネダンハ カンケイナイネ。オレノカチハ オレガキメルサ」

「でも200ブラーは高すぎじゃない?」

横から突っ込みを入れたユキ。

「私は1ブラーの価値だと思うんだけど」

「シクシクシク…」

クールであったカフェオレの泣き声がちょっとだけだが響いた。



最後尾の席は5つある。

そこで繰り広げられていたのはやはり恋であった。

「ねぇ、アランシア。 キルシュの事どう思ってる?」

いきなり質問を出したキャンディ。

「どう?って…ただの幼馴染だけど?」

その直進的な質問をさらりと答える。

はぁ、とキャンディは溜息をつく。

「やっぱり小さい頃から一緒だと、特別な感情って無いよねぇ」

(キャンディ!! 馬鹿、違う! 兄貴はお前のことが…)

ぼそりとセサミが呟いた声が丁度キルシュに聞こえたのか。

(俺の話題は止めろ!! 海に行くんだぜ? セサミ)

(で…でも兄貴…!!)

(海の歌とか海の話とか、いろんな話題があるだろうが!!)

(… …)

そんなことを言われても、とセサミが言おうとした途端に。

「海で 僕たちは子供に戻る。 天国の扉を開くのは戦士の力強い手でも、職人の器用な手でもない。 子供の小さな手のみ…」

シードルの詩がバス内に響き渡る。

(… …)

(な? オレよりも上手い奴がいたからいいんじゃねーの?)

にこやかにセサミは言い、なんとか事なきを得た。





AM11:30。



「へいへい、ガキんちょども!! 海が見えてきたぜぃ!!」

バルサミコの言葉で全員が跳ね上がる。



「うっわー!! 海だぁ!!」

「すげー、青いぜ!!」

「青くなけりゃ、なんだって言うんだよ…」

呆れた声に、嬉しそうな喜びの声。

熟睡していた一人以外は全員興奮状態に陥っていた。

「ん…もう着いたのぉ?」

ごしごしと目をこすってなんとか起き上がるリク。

「お早う、リク。 今日はまた結構寝てたなぁ」

「いつもの事だから、慣れたけどねぇ」





PM15:00。

『…ということで夜のキャンプファイアーまで自由時間になりまーす。 それじゃあ解散っ!』

ということらしいので。

「ヴァレンシア海岸っていったら海賊だよな! 海賊がこの辺に宝を埋めたらしいんだ。 探検しに行こうぜ?」

とキルシュは大きな声で言った。

「それはちょっと危ないんじゃありませんの?」

そこにペシュの反論が出てきた。

「危険じゃないよ、面白そうだよ〜。 ペシュは行かなくてもいいから他の皆で行こうよ〜」

「うーん、やっぱり俺がリーダーでキャンディも誘って…」

ぶつぶつと自分自身のための計画を練り始めた、が。

「最近、キルシュってキャンディのことばっかし〜」

アランシアの攻撃にキルシュは顔を真っ赤にさせる。

「そ、そんなことねぇよ」

そんな話し声を聞いたユキは、にやりと微笑みある少年の下へと走っていった。





波打ち際の石が沢山置いてある場所に一匹と一人が戦っていた。

否。戦っていたというか、ただの学習なのだが。

「はぁ、はぁ」

「はいそこ、休憩しない!」

「リクぅ、厳しいっぴ…」

「全く、何やってるんだか」

リクの背後からぬっと出てきたのはユキだった。

「リク」

「はい?」

「ちょっと付き合って」

「…は?」

「宝探ししましょ」

「…何故僕なんだ…」

「抵抗するなら、実力行使で…」

そう言うと、ユキの手のひらが光で眩く…―

「分かった! 分かったよ!! 分かったからそこでスペースライトは出してこないでくれ」

闇属性には唯一の弱点「光」がある。

リクとユキは相性は元々合わない。だが、それ以前の大問題。

『ユキが暴走したら(本気を出したら)学校自体…いや、もしかすると世界自体が消滅しちゃうかもねー』

マドレーヌ先生がある日言っていた言葉を思い出す。

それ程の魔力があるのに、まるで飯事遊びのように利用しているユキ。

(ホント、良く考えると僕はまだまだだよなぁ…)

そう思いリクは溜息をつく。そしてユキに提案を促した。

「でもピスタチオとユキだけじゃ、寂しくないかい?」

「…確かに」

「だったらさ、カベルネの奴落ち込んでるんだ。 楽しませてやりたいと思ってるんだけど…どうかな」

「…もしかしてカベルネが落ち込んでるのは「あの日の事故」?」

こくり、とリクは頷いた。

「それなら、私はいいわよ。 寧ろ元気出してもらわなくちゃ」



「ということで」

「どういうことだよ、これは」

結局のメンツは、木属性のピスタチオ・光属性のユキ・闇属性のリク・虫属性のセサミに毒属性のカベルネ・刃属性のカシス。

「いいメンツじゃないか。 ねぇユキ」

「まぁ、偶然的に作っちゃった感があるけどいいでしょう。 行きましょう。 案内宜しく、セサミ」

「お、おいオレが案内するのか!?」

「だってそこに立っていたのがセサミだったんだもの。 セサミなんてついでよ、ついで」

「ひ、ひどい…」

セサミが泣いているがさすがにリクやカシスは文句が言えない。

何故なら、文句を言ったらもれなく「スターライト」が来るから。

「まぁ行こうぜ。 ここにいれば日が暮れる」

それよりも早く目的地に行きたいとカシスは提案をした。



歩いていくと、ふと見たことのある二人の少年少女がいた。

「ここだ…」

少年ガナッシュが呟いた。

「近づかない方がいい。 ここはヤバすぎる」

恐る恐る、少女オリーブはガナッシュに聞いてみた。

「ここに何があるの?」

「闇だ。果てしない暗黒だ」

「…闇?」

ガナッシュはふと後ろを振り向いた。

そこに立っていたのは、同じ闇属性のリク。

「リク。 お前にも分かるだろう? この洞窟には濃い闇が潜んでいる。 覚悟を決めろよ。 何が出てくるか分からない」

「まー、大丈夫だろう。 ここには闇属性に対抗できる人がいるし」

光属性のユキに視線を移した。

「何を心配しているの? ガナッシュ。 私がいれば全然平気よ?」

そう言いつつ洞窟へと入っていった。

その光景を見つめつつ、オリーブは呟いた。

「気をつけてね…」





「オイラ、強くなる…ぴ! …な、何が来ても平気…ぴっ!!」

ぷるぷるとピスタチオは全身で震えを起こす。そこをリクは指摘する。

「ピスタチオ、震えすぎ。 あるのは淀んだ空気だけだって」

「でもっ…でもっ」

「気が滅入るねぇ。 まぁそんだけだろ。 しっかりしろよ、ピスタチオ」

「うう…」

もはやカシスに言われてはたまったものではない。

興味心身で洞窟内を見つめているユキ。

この空気を楽しんでいるかのようなリク。

ピスタチオの応援隊のような振る舞いをするカシス。

だが、震えているのはピスタチオだけではなかった。

「ドキドキしてきたヌ〜。 ハートが破裂しそうだヌ〜」

ぷるぷると身体が震えている…ではなく、震えさせている勇気あるパペット族、カベルネ。

そして…。

「あああ! アレを見て! 何かいる! 何かいるよ!?」

セサミが突然大声をあげた。

「通常通り空気読めてないねぇ、セサミ少年。 そんな大声出しても分かるって」

キンキン大声をあげたので、耳鳴りをするらしくカシスは耳を押さえていた。

セサミが見つめていたのは一人の怪しげな男。

幽霊のようにふわふわと浮かんでいるが…。

「僕が話しかけてみようかな」

「私が話すわ!」

「駄目だって。 こういうときは闇属性である僕が」

「光属性だっていいでしょうが!!」

その時、やっと怪しげな男が6人の少年少女に気づいたのか。

「…わしが見えるのか?」

そう話しかけてきたので。

「いいえ、見えてないわ」

と、とりあえず嘘をついてみた。

「思い過ごしか。 ヤレヤレ」

「って、見えてないのなら話しかけるわけじゃないだろぉぉぉ!」

良い突っ込み役がいないのでとりあえず突っ込んでみたリク。

「確かに。 それもそうじゃな」

「開き直りかよ…」

「わしを見つけてくれたお礼に、いい事を話してやろう。

この洞窟では何人もの人が死んだ。 海賊がこの洞窟に宝を埋めたとき、その秘密を守るため手下はみな殺された。

その200年後、ここの宝を掘り当てた連中は仲間割れの挙句…殺しあった。

この洞窟にはそういう奴らの念が強く強く残っている。

それがプレーンをひずませておるのじゃ。 お主らも気をつけんと、他のプレーンへ滑り落ちるぞ」

そして怪しげな男はふわりと何事もなく、消えていってしまった。

セサミの「なんだ…あの髭もじゃの小さい男…」という呆れた声だけが悲しいことだが残ってしまったが。



そしてきらりと光る宝箱を発見。

「中身はいってんじゃねぇの?」

「まぁまぁりっぱなものが出てきたわね」

「雰囲気ばっちりヌ〜!!」

「空っぽに一票」

「じゃあ、地味でいいから何か入っているに一票」

一人ずついいたいことだけ言っていると宝箱の陰から何か飛び出してきた。

それは一匹の…見たことが無い生物。

「敵だ!」

「敵よ?」

「敵ヌ〜」

「ええ!! なにこいつ」



ということで。

「頑張れピスタチオ」

「オイラっぴかぁぁぁぁぁぁぁ」

その悲鳴により、生物はびくりと体を震わせ、そそくさと逃げていってしまった。

「あーあ、逃げちゃった」

「も…もしかして、オイラに怖気づいて…逃げたっぴ…?」

「いや、チガ―」

とピスタチオの妄想を否定しようとしたリクだが、ユキによって遮断された。

(妄想させておけばいいわよ)

(そうもいかないって)

(ヒトはね、妄想することによって強くなるの)

(…ホント?)

(ええ、ホントよ)



「とりあえず、宝箱開けようぜ」

そう言いカシスは宝箱をそっと開けてみる。

そして中身を見た途端、ぱたりと閉じた。

「… …」

「ねぇ、何が入ってたの?」

「…正直言いたくないんだが…」

「教えて〜。 お願い。 ネッ、カシス君」

リクににこりと微笑まれたら教えなければいけない。

微笑むことが少ないリクに微笑まれたら…。

なのでカシスは静かに言った。

「…まつぼっくり5個」

「ふーん」

「っていいのかよ、リク」

「そんなもんよ、世の中は」

「世の中寂しすぎやしないか、ユキ」

「ドキドキして損したヌ〜」

「俺もだぜ」



「ハァ…」

「もう帰ろう…寂しい」

全員が全員、溜息をついた。











PM18:30。



静かに、海の音がする。

「これから、長いキャンプが始まります。
キャンプの間、皆は家族から離れ身の回りのことは全部自分たちでやらなくてはいけません。
初めの1日2日は楽しいと思うけど、しばらく続けるうちに寂しくなったり喧嘩したりする人が出てくると思います。
嬉しいことも勿論ありますが、辛いことも沢山あります。 だけど、それらは全て皆の経験になります。
数々の経験をすればするほど、皆の心は強くなっていきます。 本当に強くなれば、戦う必要もなくなります」

「でも…カラマリィに勝たないとオイラ落第だっぴ!! 戦って勝たないと…いけないっぴ!」

ピスタチオは悲痛な声でそういった。

「それじゃ、こう考えてみよう。 戦わなくてもいい。 勝たなくてもいい。 落第してもいい。 学校に行けなくてもいい」

「そうしたら、もう…誰にも会えないっぴ!」

「君が何処にいても、皆心の中で繋がっているわ。 それに君が気づいたとき、本当の自分自身の力に目覚めることが出来るの。
それが「本当の強さ」。 そこからが魔法使いとしての本当の始まり。 学校で教えることなんて本当はどうでもいいの」

「でも先生…!!」

「心配するなよ、ピスタチオ。 俺がしごいてやるよ!」

「私ももんであげますの! 覚悟しますの!」

「ペシュなんかにもまもれたらお終いだっぴ」

ぷちんという音が海の音と共にその場に流れた。

「…上等ですの。お終いにしてあげますの」

「…ご、ごめんっぴ」

「許しませんのぉぉ!!」

ピスタチオとペシュの追いかけっこを見つめつつ、マドレーヌはそれに負けないように言った。

「それじゃあ、それから1時間自由時間にするのでー。 時間になったらきちんと帰って来るんだぞー。 それじゃ、解散!」

去っていくマドレーヌ。

カシスはそのマドレーヌの後姿を見つつぼそりと呟いた。

「…さっきから、キャンディーもガナッシュもショコラもユキもアランシアすらいないんだけどね」

「先生、ぼーっとしているからねぇ。 さてと」

そう言ってリクは立ち上がった。

「どうしたんだヌ〜」

「僕、学級委員の仕事してくる」

「もしかして…焚き火を消さない為の…」

「まぁ、マドレーヌ先生に頼まれちゃったからね。 断れなくてさ」

「俺も手伝おうか」

カシスの言葉を聞いて いいよ手伝わなくて、と言わんばかりに手を振りながらもリクはその場を去っていった。







その頃。コテージ前には海を見つつドキドキしているキャンディがいた。

そこに応援をしにきたと思われるユキが(こちらもドキドキしながら)岩陰に隠れてその時を待っていた。

そして、その時はすぐさま現れた。

「あ…あの〜、ごめんね。 呼び出したりして」

「別に…。 俺は暇だったからいいけど」

その言葉にもじもじしつつ、キャンディは話を切り出した。

「ガナッシュ、この前誕生日だったよね?」

「誕生日? もう、随分経ったけど。 それがどうかしたのか?」

「いや、その時に…プレゼント用意してたんだけど渡せなくって…。 実は今日持ってきたんだ」

そう言いそれを震える手で渡した。

「…ありがとう」

「それで、えーっと…。 なんて言うか。 私はあの…」

「キャンディの誕生日いつだっけ?」

「え!?」

この後どうすればいいかと悩んでいたキャンディに対して、ガナッシュは急に問いだした。

「ら・・来月だけど・・・」

「それじゃあ、その時に俺から何かプレゼントするよ」

その言葉にキャンディは飛び跳ねた。

ある意味「告白」よりも嬉しい事だ。

「ホント!!?うれしい〜」

そんな有頂天にいるキャンディに微笑んで「それじゃ」とガナッシュは去っていこうとした。

「ああ、ちょっと待って!まだ話があるんだけど・・」

「学校に帰ってからゆっくり聞くよ」

「・・・分かった。また後でね」

しゅん、となってしまった彼女に振り向くことはなく「プレゼントありがとう。大切にするよ」と言い残して去っていった。





「あ〜あ・・・」

途方に暮れるキャンディ。

そこに恐る恐るユキが話しかける。

「・・・キャンディ。ごめんね」

「いいの!いいのよ。私もまだまだ修行が足りないのよ!」

「花嫁修業?」

「う・・・まぁ・・・そう、ね」

「そうだ!!」

突然大きな声でユキが叫んだ。

「このキャンプで私たちぐーんと成長してさ、ガナッシュにそれを見せてプロポーズしよ!!」

「でも・・・それだと遅くない?」

「かなぁ。でも、私はまだ間に合うと思う。今から少しずつでいいから成長していけばいいんじゃない?」

「・・・そうかも」

「ということで、愛のキューピットこと私ユキはどろんします。頑張れ恋する少女、キャンディ!」

キャンディーの応援をしつつ、ユキはそっと去っていった。



「ユキ・・・ありがとう・・・」





PM19:00。

「で、何してるのキルシュは」

途方に暮れながらもユキはアランシアに声をかけた。

当のキルシュはというと「うおおお、待てぇぇぇこのカエル野郎!!」と雄たけびをあげつつカエルを追いかけていた。

「キルシュって変だよねぇ。脳みそカエル並〜。奥にもう一匹トロイのがいるのにぃ〜」

「じゃあそのトロイのゲットしてくるわ」

そうユキは言い、キルシュを無視して奥へと行った。

すぐさまそのカエルは発見した。そしておとなしくすっとユキの手のひらにカエルは乗っかり、それは不思議なことにグミと化した。

丁度その時キルシュもやっとゲットできたのか「よっしゃあ、ケロケロゲットだぜ!」と誇り高くガッツポーズをしていた。



刹那。

ブルーベリーの悲鳴が聞こえた。

そしてはぁはぁと荒い息をあげながら、キルシュの元へと倒れこんでしまった。

「どうした!!何があったんだ!!」

「助けて!!皆殺されちゃう!!」

「何だって・・!?」

いつもならレモンもブルーベリーと共にいるはずだが・・・。その当のレモンは後ろに謎の生物と対峙しつつ、現れた。

「何なんだ。レモン、ソイツは・・・」

「知らないわよ!ご本人に聞いてみれ―」

謎の生物は容赦なくレモンに牙をむく。

「きゃああ!!」

「レモン!!レモンしっかり!!」

「くそ・・・」

キルシュは決心をし、謎の生物と対峙し始めた。

「ここは俺一人でいい!!ユキ、マドレーヌ先生を探してきてくれ。頼むぞ」

「ええ」

そう言い、傷ついているレモンに先ほど手に入れたばかりのカエルグミを投げ渡して走り去っていった。



現状は悲惨なものだった。

何やら謎の生物がうじゃうじゃといる。

それをご丁寧に倒しつつ道を広げていった。

幸か不幸か、丁度良く謎の生物は「闇」の属性らしく、一撃でそれは霧のように消えていった。

だが、敵はいくら倒しても次々と現れてくる。

それはまさに「闇」そのものだった。

その時だった。

「助けてー!ユキぃぃ!!」

そう言い、キャンディが追いかけてきたが謎の生物2匹によってどこかへと吹き飛ばされてしまった。

丁度その時、ガナッシュもそれを見てしまった。

「キャンディたちを何処にやった!!そしてお前は何者だ!!」

「我らは、闇の眷属ピスカプーク」

そう言い、謎の生物ピスカプークはにやりとこの現状を楽しむかのように微笑んだ。

「くくく・・・。いい目をしている。チカラを感じるぞ。しかし・・・もう随分戦ったはずだ。いつまでもつか。二人掛りでかかってくるがいい」

そう言われ、ユキは構えた。

「ユキ・・・。手を出すな。俺ひとりで十分だ」

そう言いガナッシュは一匹目を倒す。

残ったピスカプークは微笑んだ。

「闇属性か。くくく・・面白い」

「じゃあ光属性も珍しいでしょうね」

手を出すなと言われても現状はこちらが不利。

ユキは手に集めていた光を一気にピスカプークに叩きつけた。

そしてすぐさま消えていった。

「手を出すなっていったのに・・・」

「私だってやるときはやるの」

「ガナッシュ!ユキ!大丈夫!?」

そう言いつつ駆けつけてきたのはマドレーヌだった。

「先生!他の皆は・・・やっぱり」

「・・・・連れて行かれてしまったわ・・・」

「皆、どこに飛ばされたんですか?そして闇の眷属ピスカプークは一体何なんですか?」

「・・・闇の眷属、即ちエニグマという闇から生まれた生物。この世界には手を出さない「約束」を交わしていたのに・・・。何故今になって」

少しの間、考えふけてしまったマドレーヌ。

「この辺りは全部囲まれてしまったわ。もう何処にも逃げ場は無い」

「もういい!!!もう逃げない!!先生だって最初からこうなることを分かっていたんだろう!!?」

そういい走り去っていってしまったガナッシュ。

恐らく仲間を守れない自分を否定して、その鬱憤が溜まっていたのだろう。

「ガナッシュ!!」

止めようとしたが決意したものはやはり・・・。

「ユキ・・・隠れてて!すぐに戻る!」

そう言い、マドレーヌも去っていってしまった。

(あの時と同じ・・・。ヴァニ姉と同じ・・・)

私も行かなければ、と感じたユキはマドレーヌたちを追いかけた。



周囲にはピスカプークが大量にいた。

その数は・・・10匹から20匹ほど。

その中央にガナッシュがいた。

まるで、何かの「儀式」のように・・・。

「ガナッシュ!!」

マドレーヌの叫び声でガナッシュは後ろを振り返った。

「先生・・・待ってて。皆を連れて戻るよ・・・」

そう言ってガナッシュも他の仲間と同じように吹き飛ばされた。



「後は雑魚のみか・・・・」

ぶちりと何かが切れる音がした。

雑魚ですって?

ぶあ、と光が闇たちを包み込んでいった。

「皆にしたことを私にもしなさい」

「・・・「皆」よりも良い所へ連れて行ってやろう。お前だけは特別だ」

ピスカプークよりも相当低い闇の声だ。

それは一匹だけ赤いエニグマから発された。

「マドレーヌ・・・だな?」

「良く知ってるわね。さすがエニグマの賢人と謳われる・・・」

「出来れば「向こう」で会いたいものだ。連れて行け」

赤いエニグマに言われるがままピスカプークたちは動いた。

そしてマドレーヌも抵抗も何もしなく、仲間達と同じように飛ばされていった。

「まだ「闇」が一人残っているな。それも魔バスの方向・・・か」

「どういたしましょうか?」

「いや、私がやる。もう一人生徒がいたはずだ。なんとしても探し出し、光のプレーンへ連れて行け」

「・・・はっ!」

部下のようなピスカプークたちにそう言い、赤いエニグマは去っていった。

(・・・「闇」というのは・・・リクのことかしら。そして)

「見つけたぞ!」

気づけば、ユキの周囲には青のエニグマだらけ。

「私に手をかけるのは十万年早いわよ」

そう言いユキは唱えた。

ぶあ、と来る光の渦。

「ま・・・まさか、最後の残りは・・・」

さようなら、エニグマさん

そう言って微笑んだ。

『スペースライト』

一匹残らずピスカプークたちは消え去った。



(さて、どうしようかしらね)

悩んだ刹那。

「!!?」

こっそりと洞窟前に隠れている一人の小さな少年を発見した。

その少年はすぐさま洞窟内に逃げていってしまった。

「こらー、待ちなさい!」

「ひいいユキ顔恐い!!」

恐がりながら少年―セサミは震えだした。

「そんなことはいいの!!なんであんただけ残ってるのよ!!」

「あいつら・・奥の渦巻きからフーっと出てきたんだ。オレその光景見ちゃって「ヤベー」と思ってすぐに隠れたんだけど正解だった」

ふーん、そういうことねぇ。あの偉そうな赤エニグマが言っていたことは。

とにかく、ここから行けば皆を助けにいけるのかもしれない。

これは行動する以外・・・道は無い。

そう思ったユキは

「全然正解じゃないわよ」

「へ・・・?」

「とにかく行かないと」

そう言いユキは渦巻きを眺めた。

そしてユキはその渦の中に飛び乗っていったのだった。



「あ〜・・・。何処に行くか分からないって言っているのにぃ」

「見つけたぞ・・・」

不穏な声が聞こえてセサミが後ろを振り返ると一匹のエニグマが・・・。

「やめろおおおおお!!!」

そう言い無理やり光のプレーンへと飛ばされていった。



* * * * * *



「あーあ。これで4週目かぁ」

ふうと溜息をつきつつも「これも特訓だ。頑張ろう」と自分に気合を入れ直す。



魔バスに着いたリクは、魔バスの中で調整をしていたオヤジことバルサミコに声をかけた。

「あー、バルサミコ。ここの焚き木持っていってもいい?」

「OKOK。じゃんじゃん持っていってやってくれ。それにまだまだ焚き木はあるからなー」

「えー。まだあるのぉ」

そう言いつつ焚き木を手にかけた、刹那。



ぶあ、と来る強大な「闇」。

「お前か・・・。無垢な闇を放っているのは」

そういったのは赤い不思議な生物だった。





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