ライルが攫われて10日が経った。

ジャングルの中を只管彷徨う3人の若者。

「・・・おい」

ストレスが溜まっているのか、バンダナをつけたロックが中華風の服を着ているミントに話し掛けた。

「なによ」

「・・・ここを真っ直ぐ行けば、魔王城に着くとか行ってたよな?」

「そうよ。ココが一番早いルートだからね」

「・・・本当に魔王城なんてあるのか?」

「ある・・・はず」

「「はず」ってどういうことだよ!!!」

もうやってられない と言わんばかりに着けていたバンダナを地面に叩きつける。

まぁまぁ と言いつつ、そのバンダナをそっと拾うティナ。

その時だった。

「ん・・・?人?」



「だぁぁぁぁ・・」

レンジャーの格好をしている男が駄々をこねる。

「なんなんだよここはっ!!俺たちが倒した「無」が現れるわ!!町が見えたと思ったら無人だったわ!!」

「落ち着いてよ、バルハ。私にだって分からないわ。でも・・・」

ココを抜けなければ自分達の生死すら関わる。

なんとしても、ココから脱出しなければならない。

そう、この広大なるジャングルから・・!!

そうクルルが思っていた時。

「・・人・・?」



「・・君たちは?」

「あんたたちは?」

「俺たちはこのジャングルを抜けて魔王城ってとこにいこうとしているんだ」

首をかしげるクルルとバルハ。

「・・・魔王城?」

「知らずにこんなところ歩いていたの?しかも凶暴な魔物がいるのに」

「魔物の襲撃ならかなり慣れているからな、クルル」

そう。ジャングルを彷徨っていた時、見知らぬ魔物達が襲い掛かってきたがクルルの魔法とバルハの剣術でなんとか倒していったのである。

「なぁ」

「何?バルハ」

「俺たち目的地というもの無いんだからさ、こいつらについて行っちゃえば自然と街に着くんじゃないか?」

「そうね!!こんな所で飢え死にしたくないもの!」

「ということで俺たちも着いていってもいいか?」

「うーん・・・」

「そう言われても・・」

「まぁ怪しい奴らだけど別にいいわ!良い戦力になるし。ただ、途中で死ぬようなことあったらあっさり見捨てていくわね!」

「・・・・死ぬようなことは絶対無いさ! なっ!クルル」

「うん!こんな所で死ぬような事無いわ!」

あの戦いから4年の歳月・・。

そして己の目の前に再び「無」が現れ、放って置いてはいけない!!

「じゃあ行きましょう!」

こうして5人の若者達は森の奥深くへと歩きつづける。



しかし長い長いジャングルは彼らに容赦なく惑わせ、いつの間にか夜になってしまった。



「夜はあまり動かないほうがいいわね。今日はココで野宿っ!」

そう言ったときだった。

ぼぉ・・・ と小さな灯火が見えた。

「・・・なんだろ・・あれ・・」

「さあ・・ティナ、分かるか?」

「普通の火ではないのは確かだわ・・。でも・・・・・」

そしてティナは目を見開いた。

「・・・あ・・・あれ・・」

「?」

5人の目に見えた者は、紛れもなく黒いマントの男。

そう・・・ライルを攫っていったフォルスだった。

「フォルス!!」

「やはり来たか」

「ライルは・・・ライルは無事でしょうね!」

「ライルは無事だ・・・だが」

そう言ってある建物を見つめる。

パイプと言うパイプが折り重なって見える建物。

それはどんな人がそれを見ても研究所としか見えない。

「お前達はライルのことを知りたいか?」

「ライルの・・・!?」

「そう。ここから始まり、ここで人間の欲望が終わった。知りたいなら付いてくるが良い。だが」

そういって5人の人間を白銀の瞳は見つめる。

「今はお前達を殺すことなど私はしない。お前達が襲い掛かってくるなら話は別だがな」

そう言うと、フォルスは研究所の中へと入っていった。



「俺達を殺さないって・・・本当なのか?」

「でも今は私達、あの人に手を出せない。それよりも・・・」

「真実が知りたいわね」

「あの・・・さ。あれが魔王って奴?」

「そうよ!悪魔から人間の闇まで司っているのがあのフォルスって奴なの」

(と言う事は・・「無」とは無関係ってことなのか?・・わからない)

「・・・・?」

ぼー としているバルハの目の前を手で振ってみるミント。

「おーい!なに考えてるのか知らないけど、さっさと行くわよ!」

「あ・・ああ」

そして5人はフォルスを追って研究所へと入っていった。



暗く錆び付き、そしてジメジメしている。

この研究所を見ていると、あの時の痛みが再び現れる・・。

そう・・・全てを見失ったあの時の・・・。

「どうした?ティナ」

「ん・・・ううん、別に」



中央には大きなカプセルが一つあった。

「これは大きな魔物が封印されていた。名は・・・紫龍」

そっとカプセルの表側を撫でるフォルス。

「その後、様々な魔物達がここから生まれ始めた。どんどんと研究が進むに連れ、次第には孤児となった者まで研究対象とした。研究が失敗したら直ぐに殺された。同じ人間なのに、だ」

そう言ってこつこつと次の部屋へ進むであろう扉へと足を運ぶ。

「そして・・・ある一つの強大な力がここに運ばれてきた」

「「強大な力??」」

5人は首をかしげる。

「その強大な力を研究対象にし、ある計画が実行に移された。それが、ヘヴンズホルン計画」

「ヘヴンズホルンですって!?」

突然ミントが張り裂けんばかりの大声を上げた。

「あれは、東天王国で封印されている筈―」

「そう・・。しかし、王国は強大な力なぞこの世にあってはならないと言い、この研究所に封印してあった代物」

ふむ とミントを見つめるフォルス。

「そうか・・・・お前は・・・・」

「私が何?」

「いや・・・」

微笑して扉を開き進むフォルス。

「そして研究に対して恐怖が無かった人間達はついにヘヴンズホルンという笛を手に入れた。一つ地上に出れば全てを崩壊する・・・エイオンの遺産。それをどうやって封印しつつ解放できるかを研究する為、ある100人の孤児たちをかき集めた」

こつこつと歩くフォルスの足取りは軽くもなく重くもなく。

「そして・・1人のみがその計画で生き残ったのだ。それが・・・」

大きな空間に中央に一つ、大きなカプセルがあった。

フォルスはそれをそっと触れ、5人の人間に微笑する。

「ライル・・ライリア=フォースだ」

「「!?」」

「そして・・・ヘヴンズホルンの力により生まれた結晶が―」

その言葉の前に慌てるロック。

「ちょ・・ちょっとまて!?じゃあ・・ライルは・・ライルはその研究の対象者だったってことか!?」

「そうだ。 私と同じようにな」

「・・・貴方も実験対象に・・・」

ティナの苦しそうな言葉に深く頷くフォルス。

(この人は・・私と同じ風になってしまったのね・・・・)

「私の体内にはあるモノが入っている。それこそが、ヘヴンズホルンの力により散らばった5つの結晶達」

「5つの・・・結晶―」

即ち、クリスタルのこと。

キーワードを探りに探り当て、結論が出たときバルハの言葉は微小に震えた。

「まさか・・お前が「無」を・・」

「「無」?それは私の力ではない。私と対になる存在・・「暗黒のクリスタル」が作り出したものだろう。そして・・私が目指していたモノは・・・お前達だけではない」

「俺達だけじゃない・・・?」

「すぐに分かる」

そう言い、奥へ奥へと行く通路を歩いていくフォルス。

そして大きな扉を開いた時だった。

緑色の光が扉から差し込んできた。

「ここがクリスタルルームだ」

5人は周りを見渡した。

そこには本棚が4つ。

そして中央には 美しいと言わんばかりの緑色に輝くクリスタル。

「これこそが私と同じように生まれてきた「新緑のクリスタル」だ」

その時だった。

緑色に輝くクリスタルはまばゆい光を放ったのだ。

そして・・「声」がした。

『久しいな・・・』

「気分はどうだ?」

『ああ、ずいぶんと楽になったよ。それに・・・』

バルハとクルルはクリスタルに見つめられているかのような錯覚に陥った。

『面白い奴らを連れてきたようだな・・・くくく・・』

「お前・・・・まさか―」

一瞬の事だった。

クリスタルの正体を直ぐ察知したバルハはしっかりと剣を持ち、クリスタルへと走っていったのだ。

フォルスの黒い剣とバルハの剣が見事に交錯する。

「何でお前が生きてるんだ!エクスデス!!」

『何故生きているか? お前達には知る由も無いだろう?なぜならお前達は私を倒した張本人だからな』

「だま―」

黙れと言おうとした時 フォルスの衝撃波によって一気に吹き飛ばされるバルハ。

「ぐっ・・」

一直線に壁にぶつかり、うめく。

「言っただろう?お前達が襲い掛かってくるなら話は別だ、と」

「・・貴方は、エクスデスの事なんて知らないから―」

「そうだ。私は何も知らない」

「・・・・・」

「しかし、このクリスタルの過去の過ちを今晒そうとしても無駄だと思うがな」

余裕と誘惑。感情の爆発と憤り。

「もう我慢できないっ!」

そう言ったのはティナであった。

「滅びゆく肉体に暗黒神の名を刻め 始原の炎甦らん!」

詠唱を繋ぎ、そして巨大な火炎がフォルスに襲い掛かろうとする。

その前にフォルスは動いていた。

彼女の魔法を防ぐ為なのか・・それとも・・。

瞬間にティナの喉元に手を滑り込ませ 一気に唇を重ねる。

「・・・っ!!!」

「な・・・」

全員あっけにとられる。

何故、そこまでしてティナの詠唱を止めるのか。

そしてすぐさま分かった。

「や・・・」

「・・失われし魔の力を取り戻さん・・ラスピル」

フォルスの詠唱が終わった時、その場に崩れ落ちるティナ。

顔は青ざめ、息苦しそうに はぁはぁ と必死に呼吸をしている。

「なかなか美味だな、お前の魔力は」

くつり と笑うフォルスには余裕があった。

「しかし・・ここまでだ。渦なす生命の色、七つの扉開き 力の塔の天に到らん・・・アルテマ!」

七色の光線が標的に見つけたかのようにひゅんひゅんと軌道を変えつつ、一直線にティナたちに襲い掛かった!

「ぐあぁぁあ!!!」

ずきずきと痛み、火傷をし、体はずたぼろになっていく。

ひどい火傷に凍傷・・そして動けないほどの痛みが一気に身体に支障をきたす。

周りにあった本棚も見る影もなく燃え尽きていった。

そう。フォルスは人間達だけではなく全て無かったかのようにこの研究所も破壊したのだ。

「このような場所など・・人間などいなければ・・ライルはもっと幸せになれた・・」

研究所のパイプはぼろぼろにされ、既に崩壊寸前だった。

全てを破壊したフォルスはクリスタルを手に入れ、こう言って去って行った。



お前達は絶対にライルを救うことなどできない、と。



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