夕日が綺麗な夕方の事であった。
(ライル・・寝ちゃったわね・・)
すやすやとねているライル。
ライルがまた悪夢を見ませんように。そう願って自分もベットの上で横になろうとした。
その時だった。
トントンと部屋のドアを叩く音がした。
「・・あれ?帰ってきたのかしら・・?」
そう思ってドアを開けてみた。
目の前にいたのは、ミントでもなくロックでもなく見知らぬ男だった。
「誰ですか?」
「私の名はフォルス。ライルはいるか?」
低い声だった。
ロックの声よりも低く、そして冷静な声。
身体が震えた。
「・・・ライルを知っているのですか?」
怯えた声でティナは言った。
この男、かなりの魔力の持ち主だ。
「ライルはいるのだろう? ならば連れ戻させてもらう」
そう言って玄関から上がろうとした。
だがそれを両手を広げて 止めに掛かるティナ。
「貴方が何者なのかが分からない限り、ライルを連れて行かせるわけにはいきません」
その言葉に対し、フォルスは深い溜息をついた。
「あまり武力行使はしたくないが・・・ここには大量の人間がいる。それら全てを滅することでさえ、私には容易い事」
「!!」
少しだけ後ずさったティナを微笑ましく見つめるフォルス。
「どちらが良い? 大量の人間が町ごとなくなるか、ライルを大人しく出すか・・・」
その言葉を聞いてティナは愛用のショートソードを鞘から出した。
「それがお前の答えか」
「はぁっ!」
そう言い突いていくティナに対し、それをフォルスはひらりとかわす。
しかし からん、と剣は落ちた。
痺れのようなマヒ症状がティナを突如襲い掛かったからだ。
さらにいうと普通のマヒの症状ではないようで、体もだが頭もガンガンと痛い。
「何・・・を・・・」
そうした言葉を出すのが精一杯。
「命だけは助けてやる」
そう言い、フォルスが玄関を上がった所でティナの意識は暗黒に包まれた。
フォルスは小さな少女ライルを見上げていた。
何事も無いようにすやすやとただひたすらに、眠っている少女。
そこに手をかざす。
そこから生み出されたのは暗黒。そこにライルは飲まれていく。
そして洗濯されるかのごとく暗黒が蠢いた。
「ん・・・う・・」
ティナは気が付き、痺れがいつの間にか取れているらしく「フォルス・・・ライル!」と言い立ち上がり、そのままライルの元へ走って行った。
目の前には未だに蠢く暗黒とフォルス。
「ほう・・・もう痺れは取れたか」
「ライルはどこにやったの!」
「心配するな。ライルはここにいる」
フォルスがそう言った刹那。蠢く暗黒から一人の少女が出てきた。
容姿は何も変わっていない。ただ、全く違うのはいつもの意志のある元気な瞳ではなく、黒くどこを見ているのか分からない・・・そう、自分の意志がないこと。
「ライルに何をしたの!!」
「また恐怖で逃げ出しても困る。だからこうして自分の意志で動けなくした。もちろん命に別状はない」
「そんな・・・」
驚愕するティナに対し、ふわりと舞うフォルスは笑みを浮かべた。
「ライルは我らのものだ」
そういい、ティナの目の前から消え去っていった。
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