「はぁぁ・・・・」

と男は、行きつけのバーで今日もため息をついていた。

男は自称一流トレージャーハンターである。

・・・だが。最近は世界が平和なのか 魔物もいなくなり、ダンジョンに立ち入る事が容易になった為、お宝というお宝は全て盗られてしまった。

(あれから、3年。全ての宝はすぐ取られてすぐに売られて。俺、これからどうしようかなぁ・・・)

そう考えていた時だった。

「「あ・・」」

男の目の前にいたのはかつて「瓦礫の塔」で共に戦った女性だった。

男の名はロック。女の名はティナ。





「・・いつのまにか成人になったのか・・ティナ」

「ふふ・・これでお酒と言うものを一緒に飲めるようになったわね ロック」

「・・ティナ・・お酒嫌じゃ−」

「そこまで嫌いじゃないわよ」

ではお言葉に甘えて。

「・・乾杯」

そう言って二つのガラスのコップが音を立てた。

そしてティナがふとロックの手を見てみた。

・・・怪我をしていた。

「ロック・・怪我したの?」

「ん?ああ・・ちょっと切れただけだよ」

こんなのすぐに直る直る と調子ついている彼に対してティナは不安になった。

(でも・・・自分はそれを癒す事はできない・・)

あの時、全ての魔法は消滅し、魔物の気配も無くなった。

代わりに平穏が訪れた。それだから良いと感じていた。

しかし、目の前に癒したい者が現れると・・・己に対して苛立ちが生まれる。

どうして癒せないのか、どうして何も出来ないのか。

(癒す事はできない・・でも願う事なら・・)

そう言って魔法の言葉を使ってみる。

「清らかなる生命の風よ  失いし力とならん・・・」

そう言うと光がロックの傷を癒していった。

これにはロックも それを発動したティナも驚いた。

「え・・・なんで・・・?」

呆然とする二人。

何度も言うが全ての魔法は消滅したはず。

それなのに何故回復魔法 ケアルが発動したのか。

刹那。

どしんどしん、という音が外から聞こえてきた。

「な・・・なんだ!?」

「一旦出ましょう!嫌な予感がする・・・」

ティナが言ったようにバーの外に出てみる。



バーの外は海だ。黒い海が静かに流れていた。

そんな中なにやら大きい物体がこちらに進んでくるではないか。

「こ・・・こいつはブラキオレイドス!?」

そう、トレージャーハンターでもかつてはリボンを落とすのでよく知っている恐竜だった。

(てか・・魔物は全部全滅したんじゃなかったんかよっ!?)

そうこう考えているうちにブラキオレイドスは突進してきた。

「くっ・・」

訳も分からないが、何とか回避するロック。

「ティ・・ティナ!!」

「私に任せて!」

魔法が使えるのなら・・。そう思いティナは魔法を呟き始めた。

「地の底に眠る星の火よ、古の眠り覚し 裁きの手をかざせ!」

そうして手を空に高く掲げる。

「ファイガ!!」

見事、ブラキオレイドスは ずどん という音を残し、黒焦げになりながら倒れた。



そしてまた海は何事も無かったかのように 静かな音を奏で始めた。





「瓦礫の塔へ?」

うん というティナ。

「魔法が使える・・これはおかしい事だし、それにあそこは魔法が封印された場所・・」

「なにかあるかもしれない・・か。行ってみるか」

この世界で一体何が起こっているのか・・・。

翌日の早朝、瓦礫の塔へ向かってみた。



瓦礫の塔・・・全てはここから始まり、ここで終わりを告げた場所。魔法が完全に消滅した場所でもある。

「久しぶりに来たな・・・もうこないかと思っていたけど」

「うん・・・私もそう思っていた」

何も無い。ただ単に瓦礫のみしか。



刹那。

「やっと来たね」

そう言ったのは一人たたずんでいた少年だった。

「君は・・なんでこんなところに?」

「こんな所一人できちゃ駄目だよ?」

大人二人にそういわれて少々ふてくされる少年。

「・・俺を子供扱いしないでよ。これでもざっと2万年程度は生きているんだから」

「に・・2万年!?」

「そうだよ。失礼だね、君」

失礼も何も。

(あいつ一体・・)

(2万年も生きているなんて・・何者かしら)

「さて・・と。雑談してる場合じゃないね」

そう言って 指を鳴らした。

その音に誘われたのか。

それとも待ちつづけていたのか。

大きな大きな歪みが現れた。

「なっ・・・なんだこれ」

そう言ってしまうのはしょうがない事だ。

目の前には暗闇が迸る歪みがあるのだから。

「飲み込みなさい」

歪みに命ずる少年。



あっという間に、二人は歪みの中へと飲み込まれていった。







「これでよかったか?」

少年の背後から女性の声がした。

その女性は金の髪に金の瞳をしており、苦い顔をしていた。

「ガイアさん、ありがとうございました」

と少年はぺこりと頭を下げる。

「いや、それよりもお前だけで本当に大丈夫なのか?」

「はい、なんとか・・・」

「ならば良いが。にしても、何故あいつの援助をしなければならなくなったのか」

「やっぱり嫌でしたか?」

「嫌ではない。ただ・・・我ら始祖神はそれをすべて排除できる破壊力を持っている。下手したら器をも破壊できる」

「ええ、それは俺も知ってますよ」

「嫌な・・・嫌な予感がするな。お前も気をつけろ。何かあったら我らを頼っても良いから」

そう言い、その女性は消え去っていった。



そんな世界の空を目掛けてぺこりと少年は頭を下げた。



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