東天王国、地下。
陽炎のクリスタルはただただその光を輝かせていた。
「まさか、再び来るとは思わなかったな…」
バルハがぽつりと呟く。
ミントと強制的に離れた場所であるその場所に一行は再び来ていた。
「じゃあ、始めようか。 ライル」
微笑みながらもライルを呼ぶコア。
こくりとライルは頷き、陽炎のクリスタルの前に立った。
「えっと…陽炎のクリスタルさん。私に力を貸して下さい」
刹那。
ぶわっとくる生暖かな風。
そこに立っていたのは一人の女性。
さらりとした長い桃色の髪、ブラウンの輝く瞳はライルしか見ていない。
『お待ちしておりました。 ライリア=フォース』
「えっと…」
何かを言おうとするライルだが、なかなか肝心の事を言うことができない。
「なんだっけ…」
「クリスタルパレスを起動させて欲しいんだ、エイシャ」
肝心なことが言えないライルに代わり、コアが優しく言う。
『了解致しました、コア=クリスタル様』
「あ…あの、聞きたいことがあるんですけど…」
『どういたしました? ライリア=フォース』
「ミントお姉ちゃんについて…」
その名を聞いて、エイシャはにこりと微笑んだ。
『ミントは生まれたときから私に懐いておりました。マヤ、貴方も覚えておいででしょう?』
マヤ? 全員がふと後ろへ振り返った。
「ご…ごめんなさい、つい。そんな、立ち聞きする理由は―」
「別に大丈夫だよ。それに君の「国」なんだろ?」
真っ赤な顔の状態のマヤに対し、にこりと微笑み返すルゥ。
『ミントは生まれつきプロテクターの肉体でした。それを魔力で隠し、滅者に見つからないようにしたのは私です。しかし、幾度と無く滅者に関する者達に見つかり、無理やり「ヘヴンスホルン」と融合させようとしておりました。その折にジールと再会し、ミントを守護するようにジールをガーディアンフォースにさせたのも私です』
「再会…だと? エイシャ! お前は当時れっきとしたガーディアンフォースではなかったのか!?それをあの男に差し出し、全てを放棄してクリスタル化したのか!!」
激しく苛立ちを見せるアルテマに対し、エイシャはあの当時を思い出しながら、にこりと微笑んだ。
『クリスタルパレスへの道は開かれました。さあ、行きましょう』
そういうと霧のようにエイシャは消えていった。
からん、と何かが床に落ちる。
それは陽炎に輝くクリスタルだった。
* * * *
ある場所の小屋にて。
「泣き止んだ…か。だが、いつ また「奴ら」に狙われるかも、そしてこの場所すら知られるか分からんな…」
そう言い、ジールはそっとミントの頭を撫でた。
当時。「ヘヴンスホルン」の妖力を手に入れた男がいた。
その男は、当時でいうジールの「主」であり、支えなければならない人だった。
しかし、そのチカラが強大になるにつれ、その場にいた滅者も不安になっていった。
元々「風の王」と呼ばれる4大エレメントの守護者から生まれ出たばかりの者で溢れていた訳だから、そのチカラに耐えうる者がいなかったのだ。
その男も後々「ヘヴンスホルン」と共に「暴走」を起こすことになるのだが…。
その時に、ジールもその場から「主」である男から逃げていた最中であった。
他の滅者から『異常者』『裏切者』のレッテルが貼られてしまい、命すら狙われた時…。
助けてくれたのがまさかガーディアンフォースの一人であったとは思わなかった。
小さな掠り傷でもガーディアンフォースは心配し、不安がり、一生懸命治療をしてくれた。
誰にでも使い捨てられる筈だった生命なのに…。
『何故、私を助けた…。私はお前達の敵の―』
『分かってますよ? そんなこと』
『ならば…―』
『でも放っておけないんです』
ガーディアンフォースであるエイシャはそんな性格だった。
全ての生命の存続を望み、優しく接してくれる彼女の事を…。いつの間にか好きになっていた。
愛していたのだ。しかしそんなこと…許せられるはずが無い。
それを彼女に正直に話したら…称号を与えられた。
そう…。滅者の心を持つ私に対し、ガーディアンフォースとして生きる道を与えられたのだ。
数十年後 エイシャは東天王国の王と婚姻した。
彷徨い歩いていた私の目の前にふとエイシャによく似た少女を見つけた。
その少女は本当に幼く、黒い翼が背中から生えていた。
その少女を私は一時的に匿らせることにした。
第一、自らの正体が分からないほどに精神ダメージが酷かった。
それに…恐らく惹かれていたのだろう。それ程エイシャによく似ていた。
その後、エイシャが少女を探している事実を知り、そっと親元に返すことにした。
その時頼まれた言葉は…。
「ミント、そして マヤを守ってあげて欲しい」その一言だった。
「守る」ということは今現在の自分にとってはとても難しい。
だが、元ガーディアンフォースの頼みでもあり、命の恩人でもある彼女のために…。
「お前を…守るよ。ミント」
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