さわり、と白い髪がなびく。

なにかが起こると感じているのか、木々たちもざわざわと音を立てている。

「アルテマ」

白の髪の男はその声の主へ振り返る。

声の主は緑の髪を長く伸ばし、下の方で束ねていた。

黒のマントは、それの趣味らしい。

「エクスデス。どうした?」

「一人の小娘がこちらへと走ってきているらしい。恐らく東天王国第一王女ミントだ」

「そうか。ついにあいつが動いたか」

「それよりも『水』と『黒』はどこに・・・?」

「東天王国を襲撃してから行方不明だ」

うんざりしつつ、溜息をしつつ答えるアルテマ。

恐らく『水』の散歩に無理やり『黒』が攫われたと推測してもおかしくはない。

「・・・俺が行こう」

「いや。私が行く。あいつが来たということは、ライリアもまた来るだろう。ライリアを・・・」

「分かった」

そう言い、二人とも戦いの場所へと走っていった。



* * * * * *



逃げていく人たち。

死んでいく人たち。

それらを横目で見つつ・・・なきそうになる眼を堪えて私は走っていった。

(なんだろう・・・。ドキドキする)

異常なまでの「不安」。果たしてこれほどまでの不安感は私にはあったのだろうか。

そう思い、正門にさしかかった時だった。

「待っていたぞ・・・」

ふわりと白い髪の男が降りてきた。

服も全体的に白でコーディングされていてそこにいるだけでも眩く見える。

「あんた・・・確か、アルテマって奴ね」

「私の『名』すら知っているとは・・・」

「あんたの仲間が言ってたみたいよ?」

まぁそれはいいとして。

「どいて頂戴」

「主の覚醒の為、ここを通すわけには行かない」

「だったら・・・」

ひゅんとミントは愛用のデュアル・ハーロゥを取り出し、アルテマにそれを向けた。

「あんたをぼっこぼこにして行くわ!!」

意気揚々と言うミントに対して、もはや溜息しか残らないアルテマ。

「気合入れてくるのは分かるが、私の前では無意味」

そう言い、無属性魔法「アルテマ」を繰り出した。

七色の光線たちがミントに向かって飛んでいく。

(・・・!!よ・・・よけきれないっ)

その時、目の前に現れたのは・・・。

白い槍を持った少年だった。

さらにはその少年は七色の光線を全部叩き切ったのである。

不思議な耳。何らかの動物の耳だろうが、どの種類の動物なのか分からない。

不思議な青の瞳に、服はサックスブルー。

さらりと濃い青のショートヘアーが靡いた。

「お前は・・・」

呆然とその少年を見つめるアルテマ。

少年はミントの顔を見て、にこりと微笑んだ。

「さあ、ここは俺に任せて行って」

「で・・・でも・・・」

「早く」

「わ・・・分かったわ!」

驚きつつも、ミントは城の中へと入っていった。

「コア=ラフティ。何故・・・お前も星の民の一人のはずだ・・!何故あいつを壊さぬ!?」

怒り狂う「白」に対して、コアは落ち着いて答える。

「まずは君たちの破壊を止める為だよ」

「・・・」

「そりゃあ、あれもあれで非常に厄介だけどさ。それよりもまずこの世界を破壊しかねない君の方を止めるのが優先だ。それに、あれらはこの時点でもまだなんとでもなる」

「その想いは・・・変える気はないか?」

「いや全然全くもって」

その言葉に ふと溜息を漏らした「白」。

「・・・分かった。お前が星の民だとしても、もう容赦はせぬ」

そう言うと、「白」の身体は眩い光に覆われた。

もちろん前が全く見えないほどの白の世界。

それが消え去った後・・・一匹の竜がコアの目の前にいた。

顔つきは「神竜」なのだが翼はない。首は白いふさふさな体毛に覆われている。

全体的にモモ色のコーディング。

まさに巨大な恐竜のようだ。

『さあ・・・どうやって殺してやろうか』

ぎろりと赤の瞳でコアを睨みつける。

コアは真剣な顔つきで愛用の槍「ロンギヌス」を握り締めた。





道がない道を駆け抜けていく8人の少年少女達。

道は雑草で覆われており、周囲は木々も立っている。

「ホントに・・・こっちの道で良いのか?ルゥ」

「うん。恐らくミントも秘密の裏口から入っていったと思う。いつもそこをミントは使ってるから」

そう言い、前に進んでいくルゥ。

ふと何かの気配を感じた。

まるで「森と一体化している」ような・・・不自然さすら感じさせない気配だ。

突然立ち止まったルゥに対してバルハは声をかけた。

「どうしたんだ・・・」

「気をつけて、誰かいます」

そう言われ、ルゥの前方をバルハは見つめた。

そして・・・バルハは目を見開く。

その姿はまさに精霊「ドリアード」のような姿。

緑の髪を長く伸ばし、下の方で束ねている。

服は黒でコーディングされており、とにかくゆったりとしている。

しかし、バルハはその外見とは裏腹のある人物の「気配」を感じた。

「・・・エクスデス・・!!!」

そう言い、一気に間合いを詰め、攻撃を仕掛けた。

エクスデスも剣を持っていたのか、金属音が交錯する。

「本当にお前は何故、我をエクスデスだと・・・」

「勘だぞ、勘!大体気配で分かるっての!!」

それが本当ならどれだけ恐ろしい「集中力」か。

そう思い、エクスデスは溜息をつく。

「さすがドルガンの息子と言っていいのか・・・。まぁいいだろう」

さわさわと奏でる木々たち。

そこからライルに向かって蔓がライルの腕を捕まえる。

「あっ!!」

「ライルに何をする!!」

そう言いリースはランスでライルの蔓を切る。

しかし、蔓はそれでもライルへと飛んでくる。

否、ライルだけではない。

全員分の蔓が飛んでくる。それにぐるぐるに縛られてしまった。

一瞬のことだった。かわせぬ数が飛んできたのだ。

「ライリアは貰っていく」

余裕綽々でエクスデスはライルに手を伸ばす。



その刹那。

どす黒く大きな腕がエクスデスの腕を掴んだ。

「!?」

それはある一人の青年から伸ばされていた。

白い髪をしており、額には結晶のようなものがきらりと輝いている。

ルゥだ。

「貴様・・・!!」

その腕で、今度は全員に縛られていた蔓を一気に切り裂いた。

「ルゥ!」

「ここは僕が抑えます!まっすぐ行けば東天王国の裏口です。行って!」

「でも・・・!!」

「お願いです!!」

「・・・・っ!分かった!」

そう言い、7人とも裏口に向けてまっすぐ走っていった。



「・・・エイオンの人形か・・・。面白い。その力見せてもらおうか」

黒の腕をぐっと握り締め、気合を入れなおした時だった。

「無念の響き、嘆きの風を凍らせて 忘却の真実を語れ… ブリザガ!」

バキバキ という音を立てて、エクスデスの方へ瞬時に氷が進んでくる。

「・・・!!」

それをふわりとかわしたが、エクスデスが先ほど立っていた場所は氷柱が立っていた。

「ルゥ。俺も入れてくれよ!」

「ロックさん!なんで・・・」

「そりゃあ・・・俺が先に行ったって出番がないからだ!」

えへん、と何かに誇りを持ったような顔つき。

その様子を見てくつくつとエクスデスは笑っていた。

「どの世でも人間というものは面白いものだな・・・。だが」

緑のエネルギー弾がエクスデスの周囲でふわふわと舞う。

「どれほど我を楽しませてくれるか・・・見ものだ」

そう言い、浮かんでいたエネルギー弾をロックとルゥにぶつけた。





暗黒の地下室で一人の男がいた。

その男はゆったりとした黒い椅子に座り、本を読んでいた。

何故、暗いところでも本を読めるのか・・・分からないが。

ふと、男は天井を見た。読んでいた本を閉じる。

「・・・もうすぐチカラとチカラがぶつかり、この世界は滅ぶ・・・か」

声を低くさせ、ぽつりと呟く。

そしてかつてのあの「少女」の姿を思い出した。

永遠と己の身体に泣きついてきた・・・可哀想な「少女」の姿を・・・。

「だが、それでも尚。あの子は泣き続けるだろう・・・。可哀想に・・・」

そう言うと、微笑んだ。

「助けてあげよう・・・この滅者が・・・」



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