翌日。



ミントはふと街中を歩いていた。

ライルのこと、そして・・・。

「・・・ヘヴンズ=ホルン計画・・・」

東天王国の末裔としては知っている計画の存在。

否、東天王国では自分の家族ぐらいしか知らない計画名だ。

ぐっ・・・とミントは力強く拳を握り締めた刹那。

「東天王国が・・・燃えているらしいって」

「えぇ!?なにさなにさ。何かおっきな戦争でも始めるってのかね?」

「分からないけど・・・。世の中怖い状態になってきてるわよね〜」

この町に住むおばさんたちの不安の声。

噂でしかない。嘘だ・・・。

そう思いながらも・・・酒場に行っても同じ不安な声が広がっていた。

何が起こっているのか。

そしてそれは、もしかすると「計画」の渦上にいた自分の所為でもあるのではないか、と。



確かに、地下の方で一度だけ見たことがある。まだ母が生きているときだ。

その時は妹も一緒にいた。

『これはこの東天王国が栄えた際、私が持ってきた品なのよ』

温かくてほんわかした感触。まるで母親のような・・・。

「火のクリスタル」。

(本当は皆で行った方が良いとは思っている・・。でも・・・)

己の「過去」はとても辛く切なく・・・。

下手したら「化け物呼ばわれ」されるのではないかと。

(皆、ごめんっ!!)

そう頭の中で呟き、東天王国へ繋がる道へと走っていった。





「ミントお姉ちゃん・・・帰ってこないね」

「そうね・・・何してるのかしら」

のんびりとまったりとライルとティナは呟いた。

何もなさそうな昼下がり。

近くの庭で咲いている花々はさわさわと風に揺られていた。

刹那。

ばたん、と大きな音を立てて開く扉。

息切れをしつつ駆け込んできたのはルゥだった。

「皆、大変だ!」

「どうしたんだ。一体・・・」

「えっと・・・どこから話せば良いのか・・・」

「とりあえず全部です!!全部話す!それがいいのです!」

「東天王国というミントの故郷があるんだけど・・・。そこが魔物やらで追い込まれているらしいんだ」

「ミントの故郷!?」

「ミントにも故郷ってあるんだ・・・」

「失礼ですよ!ロック!!」

ばしんと一発ハリセンをかます、シャルロット。

「で、その張本人は・・・?」

全員、ぱたりとあらゆる動作を止めた。

確かにさっきからミントの姿はない。

否・・・朝からずっと。

「まさか・・・。ミントのことだから自分だけで乗り込んで行ったんじゃ・・・」

「そんな・・・!」

冷静にふと考えたリース。

「だからといってそこに行ったら今度はライルが危ないんじゃない?敵の罠かもしれない」

それでも、とクルル。

「だからと言って、放ってはおけないよ!」

「どうする?俺たちはこの世界の事情なんて知らないんだ。決めるのはお前だぞ、ルゥ」

バルハにばしっと言われ、ルゥは考えた末。

「・・・・僕は行くよ。僕たちは少しの期間であっても仲間だったんだ。放ってはおけないし」

「じゃあ決定だな。行こうぜ、皆」

そう言い、全員宿を後にすることにした。



― ― ― ― ― ― ―



ここは太陽都市ノクト。

世界中の「神」と呼ばれる星の民が集う場所。

そして、コアは広いリビングで正座で座っていた。

目の前には母が。

近くではのんびりゆったりと遊んでいる弟たちが。

「・・・母さん」

「何」

一言だけ「母」は呟いた。恐らく怒っている。怒っているに違いない声だ。

「・・・やっぱり怒ってる?」

「怒っているに決まっています。何故、渦中にいる者に接触したの」

「・・・そりゃあねぇ。本当は接触したくはなかったんだよ。でも、上手くはいかずにね」

「上手く・・・とは?」

「だって、アルテマは全部破壊しようとしちゃうしさ、代わりに俺は動けないし・・・。正直どうしようもないというか、ねぇ」

その言葉に、「母」はある存在の名が浮かんだ。

この世界・・・否、星の民が一番恐れている存在。

(滅者。やはりとうとう動き出しましたか。まさかこれだけ一つの世界に影響を受けているとは・・・)

「でもさ、俺は思うんだけど。それでもまだなんであの人が動こうとしないのかが俺には分からないんだ。一体あの人に何があったんだ」

「分からない。ただ、まだ消滅はしていない」

「消滅してたら大問題だよ。だってあの滅者だよ? それに劣るなんて・・・始祖神なのにそんなことはないのに」

「中で何かあったかもしれないわね。でも、あとは私に任せなさい」

「・・・へ?」

「後は私が処理しておきます。これ以上他の始祖神達に迷惑をかけることはできません」

「なんで!?」

「貴方にもし何かあったら誰が貴方を癒すのですか!!」

確かにそうかもしれない。だがコアはもう決意していた。

「でも俺は行くよ。どんなことをしてもどれだけ自分がどうなっても、俺は諦めたくない」

「・・・コア・・・」

悲しい顔をした母。そんな顔を見たくないコアは、しゅんとなり、こう付け加えた。

「ごめんね。いつもいつも俺は母さんの想いを裏切っちゃってる」

「いいの。いいのよ。自分から動くということは良い事です。行きなさい。そして・・・彼らをよろしくおねがいね」

「分かってる」

そう言い残して、コアは家の外へと出て行った。





「兄貴・・」

呟いたのは次男であるタイムだった。

「お兄ちゃん・・・大丈夫かなぁ」

不安がる三男のラゥ。

「大丈夫だよ。兄貴は強いから」

「じゃあ僕も!!・・・ケホケホ」

「全くもう。油断した時に・・・」

そう言い、ラゥの背中をタイムはさすってやった。



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