ふう、と溜息をつく少女が一人。
「ライル、辛い?」
「ううん。大丈夫。熱いね・・・ティナお姉ちゃん」
かっぱかっぱ、と小さめな馬は砂漠地帯を歩いていく。
「皆・・・あれからどうなったんだろう・・・」
あれから数日は経っているのは分かっている。
ただどれだけの間、フォルスに捕虜されていたのかは・・・さほど分からない。殆ど感覚なようなものだ。
だから心配していた。あの強大な魔法の後の皆を。
「あ。お姉ちゃん。町が見えたよ!!」
汗を拭きつつもライルはにこりとティナを見つつ微笑んだ。
「ふう。にしても一気に地帯がジャングルから砂漠へと変貌したなぁ」
そう言いつつ、べとべとした身体に嫌気がさしているロック。
「あ・・・あついですぅ~」
「ホント。あの嫌な砂漠のようね」
「やっぱりどの世界にだって砂漠は嫌なもんだよなぁ。暑いわ、喉は渇くわで」
「それも・・・一理あるけど・・・ね」
下を向きつつ、リースは言葉を濁す。
その時、あついという言葉を連呼しつづけていたシャルロットが町を発見して、その方向を指差し言った。
「あ!やっと町ですぅ~」
バザーという町はかつてはジャングルを守る種族たちが作ったものである。
だが、最近では周囲に魔物が頻繁にでるらしくそのため毎晩のように火を焚いて夜の晩をする人がいる。
それでも町人達はそこを好んで住み、そして魔物ハンターすら集まる「町」へと変貌していったのだ。
ざわざわと賑わっている中、ティナとライルは物珍しそうにバザーの市場に足を踏み入れた。
「賑わってるね・・・」
「うん・・・」
ティナもライルも実は「市場」というものは初めてで。
何故二人ともこの場所に入っていったのかすら分からない状態だった。
その時だった。
「あ!!」
大きな声を出した人物がいた。
「ティナ!!ライル!!」
それこそ、この世界を知っているトレジャーハンターのミントだった。
「へぇ~。あいつから逃げてきたんだ~」
興味深そうにミントは言う。
「まぁ逃げてきたというよりも・・・逃がしてくれたといった方がいいのかも・・・」
「にしても、ライルも無事で良かった。大丈夫だった?なんかあいつにされなかった?」
「うん!ティナお姉ちゃんがいたし、フォルスも何もしてこなかったよ」
「・・・まぁあんた達以外皆集結しちゃってるのよ。あんた達からもいっぱい情報貰って今後をどうするか、考えないとね」
「・・・はぁ・・・」
とはいっても「捕虜」という立場なので、あまり情報といったものは無いが。
そう思いつつ、ティナは深い溜息をついた。
そこは町の一角の一軒家。
石造りのその家は白く、壁の殆どがつるつるしていそうな外見だ。
そこに集結したのは、8名の少年少女達。
「まぁ皆集まったところでおさらいといきましょうか」
さらりとミントは言った。
「まずは・・・ライルとティナが捕虜されていたというフォルスという人物ね」
ティナがすっ、と手を上げた。
「・・・捕虜って言っても、束縛されていたわけじゃないわ。ただ・・・時々だけどライルをフォルスが引き連れてどこかへと行っている所は見たけど・・・」
ライルが小さく頷く。
「・・・うん。でもいつもその時に眠っちゃってどんなことされたかは分からないの・・・」
「確かに・・・いつもすやすやと眠りながら帰ってきちゃうもんね・・・」
何をフォルスは狙っているのだろうか。
そしてライルに何をしていたのだろうか・・・。
「それぐらいだわ。魔物とも触れ合ったことは一切なかったし。ただ、魔物の軍が魔王城に攻め込んできた時に、フォルスは私たちだけを逃がしてくれたの」
「そこいらも何かあるのかもね。さて次は・・・」
じぃ、とミントが見つめる先には・・・。
「俺かよ・・・」
「だってリースさんとシャルロットさんだっけ?その人たちは事の事情さえも分かっていないのよ?だから貴方しかいないじゃない。というかリースさんとシャルロットさんはあの少年やらに飛ばされたの?」
「いいえ。私たちを飛ばしたのは、ある妖精なんです」
「フェアリーというんですけど~。・・・ってか少年って誰のことです~?」
妖精フェアリーの謎の手紙からリースとシャルロットは飛ばされた。
「それすらもティナ達が見たという少年らしき人物が手配したのかもしれないわね」
ティナ達の目の前に現れた不思議な少年。
その少年が何を目的にティナやバルハ達をこの世界に飛ばしたのか。
そして、少年が狙っているのは・・・?
「後、途中ジャングルの中にあった屋敷でヴァディスという人がいたんだ。でもその人・・・フォルスの仲間だったみたいで・・・」
ロックが順当に説明をする。
ヴァディスの中に秘められていた「クリスタル」のこと。
それを奪ったのはオズマというフォルスの仲間だってこと。
そしてフォルスの本当の名前はアルテマという名だということ。
「もしかして・・・「暗黒のクリスタル」というのは・・・オズマのことだったのかも」
「・・・・・・」
ついにミントは黙りきってしまった。
魔王と呼ばれる彼の存在も。
ホルンを使用しての「ヘブンスホルン」の計画も知っていた。
しかしまさかここまで事が大きく広がっていたとは・・・。
「ミント・・・」
「・・・情報が少なすぎる。彼らが次に狙っているクリスタルの場所を定めないと・・・」
― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
「ふう。やっと我が家に帰ってきたって感じだなぁ。まぁまた戻るけど」
そう一人コアは愚痴を言いつつ、温かく湿っている地面を歩いていく。
太陽の都市、ノクト。
コアの故郷であり、「神」が初めて創りあげた都市。
都市の気候はコアの母親であるサンが管理しているので直接太陽の熱さはなく、まさしく生暖かい感じ。
だからといって外部からは直接ノクトに侵入することはできない。サンの管理外は灼熱の地獄で溢れているのだから。
「にしても、本当に母さんには謝らないとなぁ・・・」
「誰に謝ると?」
後ろ側から懐かしい低い声が聞こえた。
コアは驚いて振り返り、思わず大声を出した。
「父さん、いつの間に帰ってたの?!」
「お前が依頼を受けて去っていった後だ」
「へー、そうなんだ。って、そうじゃなくて!!冥王星はどうなったのさ!」
「・・・」
「父」は首を横に振った。
その時、ひょっこりと「父」の腕から可愛らしい生物が顔を出し、キーキーとまたも可愛らしい鳴き声を発した。
「星は駄目だったが、この子だけは助けた。冥王星で唯一の「生命」だ」
その「生命」を見つつ、コアは父に対して悲しく呟いた。
「・・・父さん・・・星が無くなる時・・・痛かった?」
息子からそんな事を言ってくるとは思わなかったので、「父」は困りつつもしっかりとした声で言った。
「・・・ああ。ものすごく、これ以上ないといわんばかりに痛かった」
そういうと「父」は可愛らしい生命を撫でつつ、そういえば と言ってきた。
「サンが何か言っていたが・・・?」
「ああ!!そうだった!じゃあね、父さん」
足早にコアは「父」のもとから去っていった。
そんなコアの後姿を見つつ「・・・まぁ何事もなければいいが・・・」と「父」は呟いた。
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