暗いリビングに青く長い髪を揺らしている少女がいた。

外もまた暗く月のみが明るく照らされ、少々寒さが残る風が吹く度白いカーテンがたなびく。

そこに赤い瞳の男が現れた。

外の暗さをそのまま持ってきたかのように静かで黒い髪と黒い服を身に付けている為か、まるでカメレオンのように隠れて見える。

「・・・裏切るつもりか?ヴァディス」

「貴方にその名を言われたくなかったわね」

「だが、裏切るのならそれ相応の罰を受けてもらわなければならない」

「どちらにせよ、そのために来たのでしょうに」

はぁ、と少女は深い溜息をついた。

「もうすぐアイツも目覚めるのでしょう?ならばほっとけばいいのでは?」

「・・・」

その言葉に男は一時的に口を閉じた。が、すぐさま言葉を発する。

「・・・アルテマが「神」らしき人物と接触をした、と言えばお前はどう反応する?」

「!!」

がたん、と少女の体が後ろへと動いた。

驚いたのだ。

まさか「神」らしき人物とこの屋敷に誘い出した人物達が・・・。

「ヴァディスも分かるだろう?もはや私たちには時間が無い、ということを」

「・・・でも、あの人たちは―」

分かっている、と男は言った。

「お前は優しい。だが、これからはその優しさはいらないのだよ」

男は腰にあったレイピアをしっかりと持った。

「さようならヴァディス。そして「目覚め」たらまた会おう」



* * * * * *



「にしても、意外と綺麗だな〜。この屋敷」

ほうー、と溜息をつきつつもきょろりと数々のブツを観察しているロック。

「まさか・・・貴方」

怪しい身振り手振りを見つめていたリース。

「泥棒?」「いやいやいや、違う。違うって!!」

「何故そこまで否定するのかがまた怪しい所ですねぇ・・・」

シャルロットまで言われる始末である。

「トレージャーハンターの名残だよ、名残!!」

「「どうみても泥棒の目をしてたよ」」

女性二人に追い詰められる悲しき男。

「俺、トイレいってくるわ・・・」

まるで逃げるかのようにトイレに駆け込んでいくロック。哀れ。



「とはいったものの、ここ結構広いなぁ」

まるで迷路のように路地があったりなかったり。

「いや、これは広いというより・・・地味にモノが多い・・・」

骨董物が異様に多い。プラスアルファでそれらは部屋のあちこちにおいてあった。

下手したら道を塞いでいる・・・なんて所もあった。

(ヴァディスさんって言ったっけ? あの人女性なのになんてコレクター魂なんだ・・・)

見かけによらず とはこのことだとロックは思った。

「って俺何探してたんだっけ?」





「遅いです〜。何してたんですか〜」

頬を膨らましてロックを待っていたシャルロット。

「いやぁ、結構遠い場所にトイレがあったから・・・はぁ、疲れた」

一体何処まで行ってきたのだろうか。

ロックは汗をかき、座り込んだ。

その時、下から重苦しい殺気が来ているのにロックは気づいた。

ロックの顔が強ばる。

そのロックの雰囲気を察したのか、リースは「どうしたの?」と声をかけた。

「いや・・・下から嫌な殺気がしたから・・・」

その殺気はどんどんと膨らんでいるように感じてしまう。

一言でいえば・・・。

「この感じは・・・嫌な予感がする」

近くにおいてあった武器を手にしてリースとシャルロットに言った。

「下に行ってみよう!!なにか起こってるかもしれない」



* * * * * *



「・・・ん・・・」

バルハは眩しいと感じた。

見知らぬ木製の窓。

そこから見えるのは一面の砂漠。

その目の前のベッドで寝ている自分。

あの暗い森とは違う雰囲気。一体自分は何処まで飛ばされてしまったのか。

「ここは・・・」

「あ、バルハ起きた?」

隣から声が聞こえた。

いつもと変わらない明るさを保った・・・クルル。

「クルル・・・?ここは・・・」

「やっと起きたの?遅いわねぇ〜」

そのクルルの隣で何年も待ちわびたかのように溜息をつけるミントの姿があった。

「私のライバルが助けてくれたのよ」

「ライバルというか・・・相棒と言って欲しい気分だけど」

ミントの後ろにいたのは白い髪の青年だった。

「あ・・・ありがとう。君は・・・?」

白い髪の青年は微笑んで名前を告げた。

「ルゥです。よろしくお願いします」



* * * * * *



ロックたちは階段を下がっていき、通路の左側の部屋へと向かった。

一気に開けてみる。

・・・恐ろしい光景が目の前にあった。

「ヴァ・・ヴァディスさん・・・?」

闇で隠れた男と黒いレイピア。

男はそれを使い、ヴァディスは腹部を刺されていた。

どさりとヴァディスの体が力なく落ちた。

「ヴァディスさん!!ヴァディスさん!!」

リースは悲鳴に近い叫びをしつつヴァディスの体を抱く。

だが。もう息は無く。代わりにあったのは・・・。

「あ・・・」

ねっとりとしている紅の血。

見事に腹部のみに穴が開いていた。まるでそこに何かがあったかのように。

唇をかみ締め、その光景を冷酷に見つめていた男をロックは睨みつけた。

「お前、何者だ!!何故ヴァディスさんを!?」

「・・・「目覚め」の為だ」

「・・・!?お前はフォルスと同じ・・・」

「やはりアルテマを知っているのだな。アルテマの魔法でもお前たちすら殺せないとは・・・。これも運命という事か」

男は睨みつけているロックに苦笑しつつも、冷静に冷酷に話を続けた。

「我らには肉体など必要ない。必要なのは・・・この美しい結晶体のみ」

男の手にはきらりと光る青きクリスタルがあった。

「まさか・・・まさかそれを体から・・・」

シャルロットは震えながら、声を発した。

ロックから話を聞いていた。聞いていたが・・・。

「お前は・・・!!お前達は「目覚め」という事をやったらどうするつもりなんだ!?」

「・・・」

男の赤い瞳はロックを見つめ、残酷に微笑んだ。

「ライリア=フォースを覚醒させたら、我らはこの世界の不純物を破棄する。即ち、この世界のゴミという人間共を抹殺する、ということだ」

「ふざけるなぁ!!」

腰に携帯していた長めのナイフでロックは男を切り裂こうとする。まるで体当たりのように。

だが、相手はレイピア。

すぐさま防御されてしまった。

「我が名はオズマ」

男―オズマは不気味に微笑んでいた。

「さらばだ。生きていたら、また会いたいものだな」

詠唱もなしに黒い影が出来ていた。

『デジョン』

このデジョンには二つの効果がある。

一つは次元の狭間を利用し、敵全体を攻撃すること。

そしてもう一つは場所移動の効果。

だが、このオズマはその二つの効果を同時に発動させた。

影から無数の鋭い触手がロックたちを襲ったのだ。

「わぁぁ!!」

触手の攻撃を受けているロックたちを無視し、その触手の中心部分へとオズマは消えていった。

「っ・・・!!」

その後、影の攻撃は止んだ。

影が出来ていた場所をロックは睨みつけていた。

なんてあっけない。そしてなんて強い敵なんだ、と。ロックは歯をぎりっと噛み締めた。



「くっそぉぉぉ!!次は覚えてろよぉぉぉ!!オズマぁぁ!!」



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