こくりとレイトネリアとラウルは紅茶を飲む。
そこはアリステル城の裏庭。
レイトネリア・ラウルはもちろん、セキュイアやロッシュ、エルーカ一行に一兵士のレイニーとマルコもそこにいた。

08.赤の再生

のんびりとした雰囲気と風が奏でるその場所を見ながらも、セキュイアもごくりと紅茶を飲む。
「全く…いつも通りだな、レイトは」
「驚かせてすみませんでした、セキュイア」
「いや…でも助かった」
セキュイアはにこりと微笑む。が、隣にいたロッシュは「助かったとはいえども…一瞬敵かと思ったぜ」と口を開く。
そして芝生にのっそりと座る機械を見た。
かなり大人しく、小鳥達すら止まる程。
それを見たアトは目をキラキラさせて、見上げていた。
「凄いの〜! 大きくて強くてカッコイイの〜!」
そしてその手を触れたりする。
レイニーとマルコは慌てて好奇心の塊状態のアトを止めようとしている。
楽しそうな3人を見つめながらも、女性が紅茶のポットを持ちながら歩いてきた。
「あれが敵なら、今頃この国も大変ね」
紅茶を注ぐ女性に対し、ロッシュは「ソニア…」と呟く。
注がれたばかりの紅茶をまたこくりと飲むレイトネリア。
「ありがとうございます。 美味しいです、このお茶」
女性―ソニアはレイトネリアの言葉に、にこりと微笑み「こちらこそ」と返答した。
「マーシーでしたっけ。 あの子の事、色々と説明していただいて」
ソニアの言葉を聞きながら、セキュイアはマーシーを見つめる。
セキュイアだけは見えるその光景は、わいわいとする3人と楽しそうな月と黄金の精霊の姿。
モノと同化した精霊はセキュイアしか見えない。セキュイアのみの固有能力だ。
「いえ…でも、これからはあの子がこの国を守ることになりますから。 それよりもセキュイアはセレスティアに入れたのですよね?」
その問いにセキュイアは振り向き、「ああ、アトのお陰だな」と答える。
本人は未だにマーシーで遊んでいるが。
その答えを聞き、レイトネリアは立ち上がり「では、そろそろ行きますか」と言った。
「…早いねぇ。 そんなに急ぎなのかい?」
ラウルの言葉に対し、レイトネリアは微笑みながら「いえ。 でも、主がセレスティアで待ちぼうけしてますからね」と言う。
「さすがに待たせるわけには行かないからな…」
立ち上がる一行に、レイニーとマルコが手を上げる。
「なら私も行きたい! だって…ストックが復活するんでしょ!?」
「僕も! お願いします」
断っても来そうな気がする2人に、ロッシュは溜息をする。
「…大所帯になりそうだな」
「ええ。 でも、それのほうが旅は楽しいですしね」
のほほんと、レイトネリアは微笑んで言った。


「では、参ります」
ぞろぞろとセレスティアに行く9人の姿を見ながらもラウルは「ストック君が復活したら、是非とも寄ってね」と微笑んだ。
ええ、とエルーカは答えた。
そしてぺこりとレイトネリアは振り向いて頭を下げる。

ぞろぞろと一行は歩いていき、平和的にセレスティアに辿り着いたのである。

セレスティアで残っていた樹の精霊がぴゅーんと飛んできた。
『あ、セキュさん! レイト様も!!』
「お久しぶりですね、リーン」
『セキュさんも無事って事は…あそこは大丈夫だったんですね…良かったぁ…あそこ守られて』
ほっとするリーンに対し、セキュイアは「…?」と疑問を感じる。
「何だ。 珍しく『あんな街なんて…!』とは言わないのだな」
『ここからでもルナとアウラを感じましたから。 そう考えるとあの町に行った時に何だかそんな雰囲気があったなぁ…って』
「感じていたのなら、素直に言えば良かったのに」
『気持ちでしたから…』
「さすがに精霊もそこまで万全ではない、ということか…」と呟くセキュイアに対し、後ろからロッシュが言う。
「兎に角、ユグドラシル神のところに行こうぜ…」
盟友―かつての仲間の復活にそわそわしている後ろに押されて声をかけたのだ。
そしてマナの神木へと歩いていった。

満ち溢れるマナの中で、すぅすぅと眠る小さな樹竜。
それを下手に起こさないように、レイニーは呟いた。
(…これが…神様?)
(こんなに小さいんだ…)
同じくマルコも興味深く見ながら呟く。
(本当にこんなのが復活してくれるのか?)
(貴殿は失礼なことを言うでござるな)
ウィルとオットーも個人個人呟く。 が、騒がしい周囲とは裏腹に眠り続ける神。
なかなか起きない主に対し、そっと優しく起こすレイトネリア。
「…ユグ様?」
ぴくり、と身体を震わせて、ふわりと身体を起こす樹竜。
ぷるぷると身体を左右に振り、ふわぁぁと可愛らしい欠伸をする。
手のような葉をぱたぱたさせて目を見開いた。
『ああ…。 何だ、レイトネリアかぁ』
その姿と値するかのような可愛らしい声に周囲は少し驚く。
「はい、レイトネリアです」
主が起きた所を見て、優しく微笑むレイトネリア。
『結構寝ちゃってたかな?』
「いえ、丁度主が依頼されたようにエルーカさんを連れてきました」
緊張しながらも前に出る、エルーカ。
それを見て、穏やかに『君がエルーカさん?』と声をかけた。
「は…はい」
かちこちに固まっているエルーカに対し、ユグドラシルは緑色の瞳をもっと見開く。
『うん。 確かに君の魂に君のお兄さんの魂が少しだけ附着しているね』
「…! では…」
『とりあえず儀式をやれば直ぐにお兄さんは生き返るんだけどね…』
ユグドラシルは身体を震わせる。
そしてそこから出たのは先程の声とは真逆の低い声。
【お前がいなければ、白き本…白示録の持ち主の復活が妨げられているままになる。 否、誰かがその細工をしたのだろうな…】
二面性な声を聞いていない5人は驚愕する。
それに反し、話は進んでいく。
「誰か…とは?」と、セキュイアは問いかけた。
【男。 それ以外は分からない。 だが、それこそがこの世界を揺れ動かしている。 数少ない緑の国を襲ったのはそれの部下となったものだ。 だが、まずは…】
ユグドラシルは身体を伸ばして、にこりと微笑んだ。
『君のお兄さんを救い出さないとね、エルーカさん』
元に戻った声にほっとしながらも、エルーカは「はい…」と答える。
「では、そこに寝て下さいね」とレイトネリアはエルーカに言う。
そしてレイトネリアもセキュイアも剣を鞘から出した。
嫌な予感がして、ロッシュは「おいおい…まさか…」と不安気になる。
『大丈夫。 レイトネリアもセキュイアもこの剣の使い方には慣れてるから』
それでも尚、周囲の不安そうな顔に対し、ユグドラシルはにこりと微笑む。
『2人が持つ剣はね、杖にもなってその杖からマナを発動させることが出来る聖剣なんだ。 聖剣にも意志があり、剣を持ち剣に認められた主の意志で効果が変わるんだ』
「凄い…万能剣ですね…」
マルコの呟きに対し、レイトネリアは「万能まではいかないですけどね」と苦笑する。
「…これもお前が作ったのか?」
ロッシュの問いに、にっこりと微笑みながら『勿論』とユグドラシルは言う。
「どれだけ凄いんだよ…お前…」
『そりゃあ、神は神でも最高神とも言われる位だからねぇ…。 それぐらい出来て当然の事だよ』
じゃあ、下がってね とユグドラシルは周囲に言う。
その言葉通りに周囲の人間達は従った。
「エルーカさん、とりあえず目を瞑っていて下さいね。 痛みはありませんが、かなり嫌な画になると思いますから」
そう言われ、目を瞑るエルーカ。
レイトネリアは綺麗な翼をつけた装飾の剣をエルーカの胸部上部で立てる。
そしてレイトネリアはエルーカの胸を剣で貫いたのだ。
「!!」
周囲はその光景に対し、目を瞑り耐える。
レイトネリアは何かを探るように剣を操作する。
そしてぴくりと剣を操作するのをやめた。
そこからするりとエルーカの胸から剣を抜けていく。
剣先から出てきた小さく白い結晶を手にして、それをセキュイアに渡した。
白い結晶を手にしたセキュイアはほのかな緑色に光る剣を天高く掲げる。
そして白い結晶を空へと放り投げた。
剣先からするりと複数の蔓が長く伸び、ふわふわと舞う。 そして蔓は地面へと入っていった。
セキュイアは目を瞑る。 蔓はずぶりずぶりと何かを探すように、地面を掘り起こす。
そして地面から蔓と共に出てきたのは赤い装束を着る男。
(!! ストック!)
全員がそう心の中で叫んだ刹那。 赤い装束の男―ストックと共にセキュイアもその場に倒れた。
慌ててセキュイアの肩を持ち、身体を起こそうとするロッシュ。
ロッシュの耳にセキュイアの寝息が聞こえてきた時、ロッシュは胸を撫で下ろした。
オットーは逆にストックの肩を持つ。そちらも無事のようだ。
『二人とも大丈夫。 無事、成功したね』
にこりと微笑む、ユグドラシル。
レイトネリアも微笑み「ベッドに連れて行きましょうか。 そこなら思い切り二人とも寝れますからね」と言った。

その場からセキュイアとストックをそっと運びながら一行は宿屋へと歩いていく。
アトは振り返り、樹神を見つめる。
己を呼ぶ声を聞き、アトは樹神を見つめるのをやめ、ぱたぱたと仲間を追いかけていった。

さわり、と神木が揺れる。
『第一段階は終わったけど…。 あの子は元気かなぁ』
ユグドラシルは呟いて天空を見つめる。
もう1人の女神…否、魔神を想いおこしながら。




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