古びた機械が集う場所。
そこに1人の機械がいる。
それは何かブツブツと呟き、そして機械を弄っていた。
それは何故か。それは機械にすら分からない。

07.月光の胎動

セキュイアたちがセレスティアに着いた時には、レイトネリア達はアルマ鉱山を抜けようとしていた。
「にしても…」
オットーが後ろを振り向く。
「本当にアレは大丈夫なのか?」
その問いにレイトネリアは「大丈夫ですよ。 あれで」とさらりと答える。

それは洞窟を抜けている最中だった。
レイトネリアはマナの結晶が溢れる場所に手を触れる。
「何をするんだ?」
「ここのマナの活力と浄化をしておこうと思いまして」
「貴殿の陣があるでござるが…」
ウィルのその言葉にレイトネリアは顔を横に振る。
「あれだけでは多分駄目ですね。 まぁ念のためのと…主からちょっとお願いされている事柄ですから」
そしてレイトネリアは3人に「下がっていてくださいね」と言い、言われた通りに3人とも後ろに下がった。
レイトネリアの指先から淡い薄茶の光があふれ出す。
そしてそこから出てきたのは何やら耳のとんがった老人のような小人のようなものが出てきた。
それは「ワヒャヒャ…」と笑い、レイトネリアとエルーカを交互に見ている。
「ノーム、お久しぶりですね」
「おう、レイちゃんか。 ワシを呼んだのは。 はて、そこの可愛い子ちゃんは?」
「エルーカさんです」
レイトネリアに紹介され、小さな精霊にエルーカは頭を下げる。
「おうおう、良い女子が二人も…しかし、ここのマナはまずまずじゃな」
「はい。 厳しい環境ですが、マナの活力と浄化のほうをお願いします」
「確かに浄化はやっておかねばならん場所じゃな。 穢れた魂たちと彷徨う魂がたくさんあるぞい。 まぁ大地を浄化すれば直ぐにそれらも天へと還るじゃろう」
では、女子二人の願いをかなえる為にやっておくかのう… という言葉を言い、姿を消した。
土の精霊が消えた場所にレイトネリアはそっと種を置く。
「なんだ、それ」
「マナの種子です。 これがあるとマナの活力を創る事も出来ますし、精霊の増殖にも役に立つのです。 まぁ精霊の家みたいなものですね」
「へぇ…。 でもそれだけ小さいと燃えたりしたら大変なことにならないか?」
「そう簡単には燃えないので安心してください。 竜の息吹でさえ耐えうる物質ですから」
「でもこれで、ここから敵が侵入してくることはないということですよね?」
少し時間は掛かりますけどね、とレイトネリアは微笑む。
「では先を急ぎましょうか」

先程の事を心配しながらもエルーカは信じていた。
それは単に守護神だからではなく、何かしらのオーラがあるんだと思っているからだ。
まるで、兄の優しい波動…。
「どうしました?」
はた、とエルーカは顔を上げる。
そこにはにっこりと微笑むレイトネリアの姿があった。
「いえ…大丈夫です」
そして機械の町へ足を踏み入れた。

アリステルの魔動に4人は驚愕する。
「凄い酷いマナの使い方をしていますね…」
マナの流れを知るレイトネリアは、緊迫した面持ちで呟いた。
「私も始めて来ますが…こんな所だとは」
「しっかし、ガチャガチャ五月蝿いな…。 こんな所で眠れるのか疑問だぜ」
「貴殿より五月蝿くないでござるよ」
ウィルの言葉にオットーは切れる。
そんなやり取りとは裏腹に女性2人は「さて、行きましょうか」「ええ、そうですね」と無視して大きな建物の中に入っていく。
「ちょっと! 待ってくださいよ、エルーカ様!」

アリステル兵士が集う場所の建物は、広いホールが入口らしい。
そこに一人の青年と一人の女性がいた。
青年はずんぐりした面立ちで女性より身長が低い。
対して女性は身長が高く、すらりとしており 動きやすそうな格好をしている。
その1人の女性の方がエルーカに気付く。
「あ、エルーカ! どうしたの?」
「こちらにラウルさんはいらっしゃいますか?」
「うん、いますよ! こっちです」
青年は前を歩き、案内をし始めた。
「で、そこの女の人は?」
「レイトネリアと申します」
レイトネリアはそう言い、軽くぺこりと挨拶した。
「へぇ…綺麗な人だね。 まるであの人みたい」
「あの人…とは?」
女性の代わりに青年が答える。
「セキュイアといって傭兵さんなんだ。 今はロッシュ隊長と荒野に行ってるんだけど…」
エルーカは驚愕し、レイトネリアは「あら…」と少し意外そうに呟いた。
「何故荒野に…?」
「そこにアトがいるから、セレスティアに入れてもらえるようにお願いするんだってさ」
「では、その人はセレスティアに…」
レイトネリアの言葉に、女性は答える。
「多分。 1週間経ってるからもう着いてるんじゃないかな? …ん、もしかしてお知り合い?」
「知り合いも何も…お仲間、お友達ですかね?」
「そうなんだ〜。 って言ってる間に着いたよ。 ここにラウル様がいるよ」

その部屋の中では1人の男が大量の書類と睨みあっていた。
外から気配を感じたのか、男は「ん? お客様かな」と呟いた。
その声が聞こえたようで、隣にいる秘書は「そのようです」と言う。
「ラウル様、お忙しい中すみません」
「いや、いいよマルコ君。 お久しぶりです、エルーカ女帝様」
「女帝はよしてください。 普通にエルーカで大丈夫ですわ。 しかし、あの時振りですね」
「ええ。 あの時はお世話になりました。 で、そちらは…?」
後ろにいる3人をラウルは見つめる。
「こちら2人は私の護衛です。 オットーとウィルと申します」
男2人は緊張しながらもぺこりと挨拶をする。
「そしてこちらが…」
「レイトネリア=ドルグエイスです」
レイトネリアは深くお辞儀をして挨拶をした。
「よろしく。 で、エルーカ様はどのような用で?」
「ええ…。 それが…」
エルーカはここに来た理由と、グラン国で起こった経緯を話し始めた。

「そうか…グランオルグが…」
全ての経緯を聞いたラウルは椅子を少し引いて、腕を組んだ。
「レイトさんに助けてもらえなかったら、私達もどうなっていた事か…」
「それで、ストック君を復活させる為にセレスティアへってことか…。 残念だけど、今はセレスティアへの通行証を配布してなくてね」
「いえ、その必要はありません」
レイトネリアのその言葉に、エルーカは疑問を感じた。
「私達の主がセレスティアにいるのは分かっているので。 それに私の友人もセレスティアにいるのなら結界を緩くしていると思います」
「!! なぜそれを知っているんだ」
「それは…―」と、レイトネリアが理由を言おうとした刹那。隣から「でも、そうなるとセレスティアは…?」と不安視する青年の声がした。
「あの方がいる場所は絶対に荒れませんよ。 そこまで計算してますから。 だからといって、あまり主を頼っちゃ駄目ですよ。 この世界でヒトがしたことすら怒り狂ってる状態なので…」
「でもそれって何でだ? 以前から考えてたけど…」
「それはもちろん、私の主がこの世界を作った張本人ですからね」
全員その言葉に驚愕した。
確かに先程のエルーカの説明でレイトネリアがこの世界のヒトではないということも、始祖神という主がエルーカを助けろと依頼されたことも聞いたが…。
「本当は、このことは機密情報でしたがセレスティアで主と友人が待っているのならば別にここで話しても支障はないでしょう」
(いやいやいや、それを何故さらりといえるんだ!)と、オットーは心の中で叫んだ。
「でも…そうしたら何故―」
ここに、とラウルが言おうとした刹那。外から騒ぐ音が聞こえた。
そして1人の兵士が部屋に入り込んできた。
「総裁! 大変です!」
「総裁じゃなくて、普通にラウル様でいいよ」
ラウルの軽い言葉に秘書が「そんなこと言っている場合ではありませんよ、ラウル様」と突っ込みを入れた。
「外で何があったんだ?」と、代わりに青年が兵士に問いかける。
「それが…以前鉱山で見た死霊が隊をつくり、こちらに向かってます!」
「何ですって!?」
「それってレイトさんが、えっと…」
ウィルが説明しようとしたが複雑すぎて分からないようで。
代わりにレイトネリアが答える。
「確かにノームの種子で、アルマ鉱山のマナと浄化のチカラはあります。 ということは、違う所から…ということですね」
「種子ってなに?」
「それはですね…」と、レイトネリアは説明しようとしたが何か黒い物体がこちらに向かっているのを肌で感じた。
「まぁそう言っている場合ではなさそうですね」
「まぁね。 何か黒いのが見えてきたし」
窓を開けて外を伺うラウルがそう言った。
「それじゃあ、先発隊出撃だよ! 行くよ! マル」
「うん。 行ってきます」
兵士含め、3人は部屋から出て行った。
「で、オレ達はどうする―」
どうするのか、とオットーが言おうとした刹那。
レイトネリアの懐から何かが光りだした。
それをごそごそとさせて何かを出す。
それは一つの種。だが、ただの種ではなく、なにか双子のように2つ種がくっついている。
それを見たレイトネリアは徐に「ここに地下ってあります?」とラウルに問いかけた。
「まぁ…あるけど…。 それは?」
未だにぴかぴか光る種を不思議そうにラウルは見つめた。
「これが先程言っていた種子です。 これで精霊が繁殖し、マナに包まれる場を作るのが私達の使命なのです」
「! と言うことはアルマ鉱山と同じ事が…」
「ええ、出来ると思います」
「でも、もしかすると地下には…」
不安げに言うラウルに対し、レイトネリアは「悪意が満ちていたら倒しますから、安心してください」とにっこりと微笑んだ。
その微笑に負けたのか、ラウルは溜息をして「じゃあ案内しよう」と言い 秘書を残して全員部屋から出たのである。

エスカレータで降りた広いホールで1人の兵士が黒い兵と対峙していた。そこにレイトネリアが入り、黒の兵士を剣で一断ちする。
斬られた黒い兵士は倒れ、その場で砂と化した。
レイトネリアはそれを見終わり、後ろを振り向き「大丈夫ですか?」と兵士に言った。
「ああ…ありがとうございます」
「そうだ! 貴方にお願いがあります」
その兵士に対して、すっと出したのは白い結晶。
「これでセレスティアに入れるので、セレスティアに援護をお願いしに行って下さい」
「これで…?」
疑問を感じる兵士に対し、エルーカは「そうですね! これなら…ロッシュ達にも…」と嬉しく言う。
「ロッシュ大将がセレスティアにいるのですか!?」
「そういうことです。 お願いしますね」とレイトネリアは微笑みながら言った。
その微笑に答えるように、兵士は走っていった。
兵士の後ろ姿を見送った一行は、地下へと入っていく。


地下研究所。
以前、ここでは大規模な魔動の研究がなされていた。
だがある一人の男により、魔人が生み出され、そして崩壊した。
灰と錆びた臭いでいっぱいになっている場所を5人は歩いている。
「かなり古びた施設ですね…」
レイトネリアはぽつりと呟く。
「以前は此処で魔動の研究がなされていたんだけど…」
苦笑しながら言うラウル。
「どうしてやめてしまったのですか?」
「魔動…操魔とも呼ばれてるんだけど、その力を悪用した人がいてね…」
その言葉にエルーカは「賢明な判断です」と言う。
静かに、足元に注意して歩いていくと何か奥に人がいるのが見える。
「これは…フェンネル!!」
ラウルはそう叫んだが、フェンネルはぶつぶつと呟くだけ。しかもそれを聞き取ることが出来ない。
「…やっぱりこの人ですね」
レイトネリアの言葉に疑問を感じるエルーカ。
そしてレイトネリアはくっついた種子をそっと取り出す。
「ルナ、アウラ 出てきなさい」
その言葉に反応するかのように、種から光が溢れてきた。
その色は黄色。まるで月のような眩い光が周囲に溢れる。
そして出てきたのは二人の精霊。
1人はまるで月の器に包まれたかのような形をしており、もう1人は黄金の銅像のような不思議な形をしている。
『はい…』
『お久しだね、レイト様』
そんな精霊に対し、レイトネリアは「この人が何故此処にいるか、分かりますよね?」と問いかける。
『ええ。 この人は後悔をしています』
「…後悔?」
『うん。 この人はね、長年魔動の研究をしていた。 それが自然―マナに対して悪影響がでるのは分かっていた。 でも悪い奴に悪用された。 その結末は、化物の誕生になった』
『魔剣から造りし者は精神的に狂い、ヒトをも殺そうとした。 哀れな男…ヒューゴ。 それよりも自身が哀れだと想い…』
『そしてここにいるんだ』
その言葉にラウルは そうか…と呟く。
『そしてこの人は悩んでいます』
『どうすればこの国を守れるのかを』
『そして決断しました』
『新たなる開発でこの国を守る、と』
『私達はその思いに反応し…』
『そのチカラとなるよ』
二人の精霊からぶわぁ、と光が放たれる。
レイトネリアが持っていた種子はふわりと天空に舞い、機械男が弄っていた機械に入っていく。
そしてそれは動き出した。
それを見て機械男―フェンネルは「お…おおお…」と言い、雫がぽたりと落ちた。
「わしは…わしはついに…」
1人感動しているフェンネルにレイトネリアはそっと肩に触れる。
「貴方がフェンネルさんですね?」
「ああ、そうじゃ。 …ラウルよ、本当にすまなかった」
「いや…でもこれは?」
ラウルは大きな機械を見上げる。
「これこそがこの国を守る守護機械じゃ。 これで…」
刹那フェンネルの体から煙が吹き出た。
「!!」
「見ての通りわしはこれまでじゃよ…。 おそらくはもう…。 これでこの国を…守って…」
フェンネルの声が小さくなり、煙が大量に吹き出る。
そしてその機械男は動かなくなった。
『レイト様、この人のコアを…』
「分かりました」
レイトネリアはそう言うと、そこにあった工具でフェンネルを解体し始めた。
「そんなこと、出来るのですか?」と、不安気にエルーカはレイトネリアに対して言った。
「任せてください。 こういう機械弄りは大の得意です」
そしてフェンネルの中央部から赤い結晶が出てきた。
レイトネリアは、それをそっと取り出す。
そしてそれを守護機械の中にはめこむ。
レイトネリアはキーボードの前に立った。
「そういえば、名前を入れてなかったですね…」
そのキーボードをカチャカチャと操作する。
「では、マーシーにしましょう。 よろしくお願いしますね、マーシー」
にこりと金の女神は微笑み、それに答えるかのように機械はぶしゅー、と白煙を出した。
呆然と見続ける4人に対し、金の女神はマーシーの背中に乗り込む。
「皆さんも乗り込んじゃってください。 発進しますから」


その頃、セキュイア達はラズウィル丘陵で戦っていた。
だが、その数は…。
「く…何て数だ」
ぜぇぜぇと汗をかき始めるロッシュ。
倒しても倒しても出てくる程の大量の敵に苦戦をしていた。
「ざっと500はいるな…」
「だが以前、アルマ鉱山で陣を組んだんだよな? なのにか?」
ロッシュの声にセキュイアは「いや…」と返答する。
「そっちからじゃない。 違う所からだと思う」
「まさか…砂の砦か!? だが、そこはあの人が守っている筈だ…」
「あの人…とは?」
「ビオラ将だ。 だが、そこから来たということは―」
刹那、遠くから見たことがある姿が見えた。
それは…「マルコ! レイニー!」
「ロッシュ!」
「お前たち大丈夫だったのか?」
「うん!」
「ロッシュ聞いてよ! 砂の砦まで行ってビオラさんと一緒にリーダー格を倒してきたんだ。 褒めてくれる?」
「!! おう、よくやったぞ。 だが、あまり無茶するなよな」
「えへへ…」
「ロッシュもね」
だが…、とロッシュは呟き始めた。
「そうなると砂の砦が浄化されていないが…あそこは大丈夫なのか?」
その問いに、セキュイアは答える。
「リーダー的存在を倒したのなら、浄化がなくてもアンデットが復活するまで時間は掛かると思う。 大丈夫だともいえないが…」
「そうか。 そうしたらあとはこいつらだけか―」
刹那、セキュイアは振り向いた。 ロッシュもアトもマルコもレイニーも後ろを振り向き、呆然とする。
そこには巨大な機械が立ち尽くしていた。
それが敵に見えたのか、ロッシュは「くそ…挟み撃ちか…」と、舌打ちをした。
だが、セキュイアにはそれが敵には見えなかった。
「いや…違う」
「何?」
「セキュイア、伏せてください」
その声が聞こえた刹那。巨大な機械から何か白い光が放たれた。
セキュイア達の前方にいた敵が全て一掃される。
機械から解き放たれた恐ろしい威力の波動砲にセキュイアも呆然とする。
そんな5人に女帝はひょっこりと顔を出した。
「ロッシュ! 無事でしたか?」
「あ…ああ…まぁ」
未だに呆然としているロッシュはこくりと頷く。
「にしても…これは何だ…」
「フェンネルの置き土産」と、嬉しそうに顔を出したラウルが言う。
「にしても、凄いね。マーシーは」
「ええ、これならアリステルは大丈夫ですね」
総裁と女帝が穏やかに話し、金の女神もにこりと微笑む。

そんな3人の話に追いついていけないままの5人。
ともあれ、アリステルは再び平穏な日々を送ることが出来るようになったのである。





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