(にしても、本当に良かったのですかね…お仲間置いてきてまで…)
リーンはロッシュの後ろ姿を見ながら、心の中でポツリと呟いた。
アリステルから出た3人は今、砂漠に向かって歩いている。
サテュロス族を探して出かけたのだが…。
リーンの呟きに対し、セキュイアは心で返答をした。
(さあ。 だが一応はアリステルもしっかりと防衛しておかないと、という考えだろう。 またアンデットが出てきた時に、町を守る者がいなければ…)
(…なら、良いんですけど)
そうして、じぃ…とロッシュを怪しんで見るリーン。
「…何だリーン、その目は…」
『な…何でもないですよっ!!』

02.砂漠の巫女

その断崖はラズヴィル丘陵を越えた時に現れた。
裁きの断崖…そこから荒野にかけて木々は枯れ果てていた。
寂しくもあり、悲しくもあるその断崖を見て、リーンは悲しく呟いた。
『ここからかなりマナの量が少ないですね…』
「…分かるのか?」
『精霊はマナでつくられているんですよ。 恐らく元々この世界にも、精霊が沢山いたのでしょうが…。 所々にそれらしき跡がありますし』
「するとお前は大丈夫なのか?」
『あるお方からマナを共有しあうアイテムをもらったので一応は大丈夫です』
「そのお方って…凄い奴なのか?」
『そりゃあ神様ですからね』
「神…!?」
盛り上がり始める二人に対して、セキュイアはぽつりと呟く。
「賢樹とも呼ばれているそのお方は世界を創り、三人の女神を創りあげた」
「もしかしてお前がその女神…という冗談は無しだぞ…」
「それだったらどうする? お前こそ「この世界を救って下さい」とほざくなよ。 この世界は私一人では手に負えない。 鉱山のようなことが毎回起こっては私の身が持たないからな」
セキュイアにきつく言われたロッシュは「神は万能じゃない…ということか」と呟いた。
「そういう事だ」とセキュイアが言った刹那。
頭上から巨大な石が落ちてきた。
『ひゃあ…』
右往左往している精霊を懐で包み込む、セキュイア。
「大丈夫か? リーン」
『え…ええ…』
「こっちに避難できる場所がある。 そこに行こう」と、ロッシュは洞穴に入っていった。
そこにセキュイアも必死に走って追いかける。

そこは外の荒地と真逆で、明るく広々としており、尚且つ自然が溢れた場所。
野営をするのにもってこいの場所だ。
『ふう…ここはマナがあって落ち着きますね』
「そうだな。 まだこんな所があったとは…」
白示録には書かれていたが、こんな綺麗な所だとは。
「ここは、後からストックから聞いたが…仲間のサテュロス族が教えてくれた場所らしい」
「そのサテュロス族とはどんな一族なんだ?」
「シャーマンと言われていて、かなり特殊な能力を持った一族だ。 死んだ者の声を聞けたり…。 まるでお前のような…」
「私のような? 確かに私は浄化と守護の能力は持っているが…」
「そうなのか。 ちっちゃくてかわいい奴だぞ。 ストックが好きな奴でもあった」
「愛されているのだな…。 何だか私も会いたくなってきた」
そう言ったが、ふわぁ と欠伸をして「少し疲れた。 寝るとする」と言い、ロッシュの前で雑魚寝し始めた。
『またこんな所で…』
「まぁ良いだろう。 今日は此処で一晩過ごすか」



翌日。
改めて断崖の落石に注意しながら歩いていくと、砂漠が見えてきた。
イトリア荒野。そこはもはやマナも木々も生えていない。
あるのは荒れ果てた土地だけだった。
『酷い…こんな所…』
もはやマナに敏感な精霊は言葉にならないような、枯れ果てた声しかなかった。
「それよりも…アイツはここら辺にいると思うが…」
「待て、遠くから声が聞こえる」
「おいおい、そんな声俺には―」
聞こえないといおうとした刹那。
「なの〜!」とロッシュの上部から何かが落ちてきた。
「…っ!!」
小さな身体でロッシュの身体をぎゅっとさせているそれは、角が生えておりケープの姿でかなり動きやすい服を着ていた。
「ロッシュなの! 久しぶりなの〜」
「お…おう。 久しぶり…」
突然の登場にロッシュは戸惑いながらもそう言った。
呆然と見るリーンと、冷静に見つめるセキュイアに対して、それはセキュイアとリーンを交互に見つめる。
「…何だ?」と言ったセキュイアに対し、それはセキュイアの手をぎゅっと握り締めた。
「同じなの〜! アトと同じシャーマンなの〜」
アトにそう言われ「…同じ?」とセキュイアは言い、少し考え込む。
考え込んだ結果、「少し違うぞ」とさらりとアトに言う。
「そうなの? 少し違うの?」
セキュイアとアトの周辺をふわふわと飛んでいるリーンは『確かにちょっと違いますね』と言った。
そのやり取りにロッシュは「…違いが分からん」と困惑気味だ。
「私はセキュイア、こっちは精霊のリーンだ」
「アトはアトなの〜!」
「よろしく、アト」
そう言い、セキュイアはアトの小さな手と握手した。
「…にしてもアト、なんでこんな入口に一人でいるんだ? エルムと一緒じゃないのか?」
「エルムはブルート族の村にいるの。 この荒野で黒い渦が出たから、アトが様子を見に来たの」
「黒い渦? 竜巻ではないのか?」
「全然違うの。 黒い渦の所為で魂達が泣いてるの」
その言葉を聞いてセキュイアは「まさか…」と言い、遠くを見た。遠くには何もない、ただ砂が広がっているだけ。
だが、セキュイアには見えていた。強大な…巨大な黒い物体が渦巻いているのを。
それを見、冷汗をもかき始めた。
そんな飼い主の異変を感じたのか『どうしたんですか? セキュさん』とリーンは言った。
「くるぞ!!」と、セキュイアがそう言った刹那。
一行の目の前で黒い渦が出現した。
その時全員を包み込んだのは淡い緑のオーラ。それは暖かく包み込み、黒い渦の狂気から身を守っているような気さえした。
数十秒後には、黒い渦は消え去っていた。
『ふう…セキュさんのお陰ですね…』と、リーンは言ったが、返答がない。
『…セキュさん?』
どさりと、セキュイアは倒れた。
「!!」
『セキュさん!!』
「おい、しっかりしろ!」
だが、返ってくるのはぜぇぜぇと荒い呼吸のみだ。
『ちょっと…ロッシュ、この近くに町はないの?』
「真っ直ぐ行けばシグナスの町に入れる。 そこに行こう」
ロッシュは荒呼吸をしているセキュイアを担いで、歩き始めた。
不安げにリーンはロッシュの肩に乗る。
(緑のオーラ…セキュにはなかったの…)
心の中でアトは呟き、不安になりながらも前に行くロッシュ達を追いかけた。



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