遠い遠い世界では、砂漠化が急速に拡大していた。
遠くに見える葉が眩いほどに…。
そこに降り立った一人の男はその光景に溜息をついた。
それは断じて綺麗とか美しいとかいう意味合いではない。
呆れる、とでもいう意味合いだ。
「多重に多くの魂が大地に染み込んだから、酷く悪化してるなぁ…」
これだからこそ人間というのは信用も信頼もままならないのだ。
確かに時には心強き者が全て解決することも出来るのだが…それに対して足を引っ張るのもまた人間。
「これだと、5年ぐらいでこの世界はお終い…。 と、なったらこっちがこっちで処理に困るんだよなぁ…」
重ねて溜息をつく。
「こうなったら、あの『樹の賢人』に解決方法を教えてもらうしかないか…」
そう呟き、男は砂漠だらけの世界から姿を消した。

00.白示録

女性はまた今日も図書館へとやってきた。
最近何かと暇になる時間が多い為だ。
旅をしている時はとても楽しいのに、なにもやることがないと全くもって楽しくない。
二人の友人も最近は手紙のやり取りもしていない。
肩の横にいる精霊といつも話す…ぐらいしか楽しみがないのだ。
なので最近の楽しみといったら図書館で本を10冊借りるぐらい。
しかし、それも半日で直ぐに読み終わってしまう。
速読という能力が他の世界では有名になっているらしいが…。
そう思いながら本を家探ししていると…。
ある本に目が留まった。
それには題名はおろか、作者の名前もない。中身を見ると、誰かの自叙伝のようだ。
(…これは珍しい本だな)
そう考え、借りていくことにした。
結局その本だけしか借りることが出来なかった。
ほとんど読み漁ってしまい、あとはあまり興味がなかったり面白くなかったりした為だ。
そして司書に「これを借りていく」と言うと。
「その本は…。 読めるのですか?」
「??? なんだ、その言い回しは。 普通に読めるぞ」
「そうなんですか…。 実はと言うとそれは私には読めないのです。 私だけではありません。 貴方以外、全員」
「それは私が奇妙、とでも言いたいのか?」と、少し切れ気味で女性は言った。
「ち…違います。 でも何か魔族の呪いかも知れないと思い、処分に困っていたのです」
「魔族の…呪いか…」
確かにありえる。
だが、その利が全く見えてこない。それに、ますますその本に興味がわいてしまった。
「その本は貴方に差し上げます」
「いいのか?」
「はい。 読める人ならもしかすると…」
「分かった。 有難く頂戴する」


『セキュさん、本当にそれ大丈夫なんですか? 変に魔族の呪いなんて被ったら…』
帰り道。そわそわと言って来たのは女性―セキュイアの肩に乗っている精霊だった。
「リーン、何度も言ったが私はその魔族との知り合いだし、呪いというものにはかなりの抵抗力があるんだ」
『はぁ…。 でもこっちまで呪いが来そうで怖いんですけど…』
「それは心配ない。 これは呪いでもなんでもない。 そもそも見えないようにしたのは呪いではなく、意図的にそうしたんだと推測している」
そう言うと、セキュイアはその本にますます興味がわいてきた。
一体何故意図的に中身を見れないようにしたのか、そしてそんな本は何故あの図書館に置かれていたのか。

マイホームに戻ってきた刹那。
剣がぴかぴかと光っている。
『これは…?』
「あのお方が私を呼んでいるらしい。 なにかあったようだな」
『行くのですか?』
「リーンも来るか? エウラが喜ぶ」



その場所は緑に囲まれた美しい森林だった。
花も咲きほこり、その中ですやすやと一人眠る少女がいた。
『エウラ…寝てるようですね』
「ああ。 そっとしておこう」
そうしてセキュイアは大樹の目の前にいく。
突然跪き、頭を下げた。
「守護の意思セキュイア、参りました。 ユグドラシル様」
その言葉を聞いてか、ひょっこりと現れたのは小さな木だった。
否、それは木ではなく小さな竜のような…。
不思議なソレは、小さな少年のような声を奏でる。
『全く。 君は堅苦しいのが大好きなようだね。 僕は嫌いなんだけど』
「貴方に造られたのですから当然の行為です」
『…納得いかないなぁ。 ま、それはいいや。 実はね、君に依頼があって呼んだんだよ』
「依頼…ですか」
『うん。 この星の横にね、小さな星があるんだ。 その星が最近砂漠化をしててね、こちらもマナの供給をしていたんだけど、なかなか追いつかなくてね。 ついには、ある一人の男の所為で急速に砂漠化が進んじゃって…ちょっと困ったことになってるんだ』
「ある一人の…男の所為で?」
ちらりと先程借りてきた本を見た。
最後の部分を少しだけ読んだが…確か王子の位に立つ男が砂漠化を止める為に生贄としてその身を捧げた、と書かれていた。
まさか、な。
『うん。 原因は多重の魂…それも負が残ってる魂が大地を埋め尽くしてしまったからだと思ってるんだ。
そうすると、魔が膨大化して いつかのナイドヴァルツのようになっちゃうかもってこと。 そこで、君に先発でその星の調査をして欲しいんだよ』
「畏まりました。 ただ…何故私なのですか?」
『そりゃあ、君が中間だからだよ』
「…中間?」
そうそう、とユグドラシルはこくりと頷く。
『レイトは草人と竜人の中間だけど、負にはまだまだ弱い。 逆にクロゥだと魔族だけど、ヒトに対してはかなり鈍感だし。
君はその中間にいると思うんだよね。 まぁたまに堅苦しい所もあるけども』
「堅苦しいのはいけないことでしょうか?」
『まぁ独特だから仕方ないよ。 と言うことで今から行って来て』
「畏まりました。 …リーンはどう致しましょうか?」
『リーンはマナ不足の世界じゃ、ちょっと生きていけないかなぁ…。 まぁ、お留守番だね』
『えぇぇ…。 私、お留守番嫌いですよぅ』
「我儘言うな、リーン」
『じゃあ仕方ないね。 リーンだって外の世界に触れても良い頃合かもしれないね。 じゃあ、リーン ちょっと手を出して』
リーンは小さな手をこれまた小さな竜に対して差し出した。
ふわっとした光が瞬いた刹那、リーンの腕には樹と葉で作られたブレスレットがあった。
『これでマナが無くなった世界でもリーンは生きていけるようになった。 これはね、僕とリーンがマナの供給をし合うための物。 ナイドヴァルツに何かあったらきついけど…まぁそれは超最悪な事態だから今のところないから平気だね』
『ありがとうございます! ユグ様』
『じゃあいってらっしゃい。 良い朗報、待ってるからね』

ワープしていく一人と精霊の後姿を見て、ユグドラシルは身体を揺らした。
【白き本を持つ者…か。 セキュイアは選ばれし者。 あれに任せればあの世界のマナの循環は良くなるだろう…。 だが、彼女一人だけ背負わせるのは厳しいな、レイトネリア】
はい、そうですね と言う綺麗な女性の声がそこに響いた。
【レイトネリア、お前に願いがある。 この世界のマナの種子を全部かき集めて来い。 それらをあの忌々しい砂漠の世界に入れ込む】
「忌々しい、という言葉を貴方から聞けるとは思いませんでした」
【それほどまでに汚れた世界ということだ…。 頼むぞ、レイトネリア。 それをしなければセキュイアは…】
分かっております という声が響いた後、女性の気配は消えた。



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